Scene 03 · Notes

解説 場面 3「ベイカー街の窓」

この場面の解説

1888年3月20日の夜、往診帰りのワトソンがベイカー街を通りかかり、窓に映る影から、ホームズが新しい事件に取り組んでいると見抜いて部屋を訪ねる。

表現・文法のポイント

I had now returned to civil practice
civil practice は軍医に対する「一般の開業医の仕事」。ワトソンはもともと軍医としてアフガニスタンに従軍していたので、民間の医者に「戻った」と言っている。practice は医師や弁護士の「業務・開業」を指す。
I was seized with a keen desire
be seized with ~ は「(感情・衝動など)にとらわれる、急に襲われる」。seize は「つかむ」で、感情に突然つかまれるイメージだ。keen desire は「強い願望」。
his attitude and manner told their own story
tell its own story は「(言葉にしなくても)それ自体が事情を物語る」という慣用句。ホームズの姿勢やしぐさを見ただけで、彼の様子がワトソンには分かった、ということ。
hot upon the scent
be hot on the scent で「獲物のにおいを追っている」→「手がかりを熱心に追っている」。猟犬の比喩で、ホームズ物語ではホームズを猟犬にたとえる表現がよく出てくる。

背景・時代

『緋色の研究』
the Study in Scarlet は、ホームズとワトソンが出会って同居を始めた第1作の事件である。また my wooing(求婚)は、前作でワトソンが妻と出会った事件を指すと考えられる。ベイカー街はワトソンにとって思い出の場所なのだ。
ブラインド越しの影
ガス灯で明るく照らされた部屋の人影が、外からはブラインドに黒く映る。街灯とガス灯の普及したヴィクトリア朝ロンドンらしい光景で、ワトソンは影の動きだけで友人の状態を読み取っている。

全文の対訳

One night—it was on the twentieth of March, 1888—I was returning from a journey to a patient (for I had now returned to civil practice), when my way led me through Baker Street. As I passed the well-remembered door, which must always be associated in my mind with my wooing, and with the dark incidents of the Study in Scarlet, I was seized with a keen desire to see Holmes again, and to know how he was employing his extraordinary powers. His rooms were brilliantly lit, and, even as I looked up, I saw his tall, spare figure pass twice in a dark silhouette against the blind. He was pacing the room swiftly, eagerly, with his head sunk upon his chest and his hands clasped behind him. To me, who knew his every mood and habit, his attitude and manner told their own story. He was at work again. He had risen out of his drug-created dreams and was hot upon the scent of some new problem. I rang the bell and was shown up to the chamber which had formerly been in part my own.

ある晩のこと、それは1888年3月20日だったが、私は患者のもとからの帰り道にあった(私はこのころ、また町医者に戻っていたのだ)。その道すがら、ベイカー街を通りかかった。見覚えのあるあの扉は、私の心の中でいつまでも、妻への求婚と『緋色の研究』の暗い事件とに結びついている。その前を通ったとき、ホームズにもう一度会いたい、彼があの並外れた力を今どう使っているのか知りたい、という強い思いに駆られた。彼の部屋には明々と灯がともっていた。見上げたちょうどそのとき、背が高く痩せた彼の姿が、ブラインドに黒い影となって二度横切るのが見えた。彼は頭を胸に垂れ、両手を後ろで組んで、すばやく、熱心に部屋の中を行ったり来たりしていた。彼の気分も癖も知り尽くしている私には、その姿勢と様子がすべてを物語っていた。彼はまた仕事に取りかかっているのだ。薬が生んだ夢から抜け出し、何か新しい問題の匂いを夢中で追っているのだ。私は呼び鈴を鳴らし、かつては半分私の部屋でもあった部屋へと案内された。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • wooing(ウーイング)… 求婚難
  • well-remembered(ウェルリメンバード)… よく覚えている
  • extraordinary(イクストローディナリー)… 並外れた
  • drug-created(ドラッグクリエイティッド)… 薬が生み出した
  • brilliantly(ブリリアントリー)… 明るく輝いて
  • associated(アソウシエイティッド)… 結びつけられた
  • silhouette(スィルエット)… 影絵・シルエット
  • incidents(インスィデンツ)… 出来事・事件(複数)

次の場面:再会 Reunion

久しぶりに部屋へ上がったワトソン。ホームズは言葉少なに迎え、暖炉の前に立ってワトソンをじっと眺める。そして、まだ何も聞いていないのに、ワトソンの近況を言い当てはじめる。