Scene 08 · Notes

解説 場面 8「桃色の手紙」

この場面の解説

ホームズは、見るだけでなく観察しているから階段が十七段だと知っていると言う。そして最終便で届いた日付も署名もない桃色の手紙をワトソンに読ませる。

表現・文法のポイント

you are good enough to chronicle
be good enough to ~ は「親切にも~してくれる」という丁寧な言い方。chronicle は動詞で「記録する、年代記に書く」。ワトソンが自分の事件を書き残していることを、ホームズは少し皮肉まじりに言っている。
my trifling experiences
trifling は「取るに足らない、ささいな」。自分の手がけた事件を「ちょっとした経験」と謙遜してみせているが、実際には大事件も含まれており、ホームズ一流の控えめな言い回しだ。
It came by the last post
post はイギリス英語で「郵便」(アメリカ英語では mail)。the last post は「その日の最終の配達便」のこと。by post で「郵便で」となる。
without either signature or address
without either A or B で「AもBもない」。not ... either A or B と同じ形で、neither A nor B に近い意味になる。日付も署名も住所もない、謎めいた手紙だということが強調されている。

背景・時代

一日に何度もある郵便配達
ヴィクトリア朝のロンドンでは郵便が一日に何回も配達された。そのため夜の「最終便」で手紙が届くのも普通のことで、手紙はいまのメールに近い感覚で使われていた。
十七段の階段
ホームズが段数を知っていると言う「17段」は、ファンのあいだで有名な数字になった。ベイカー街221Bの部屋を再現する試みでも、この段数がよく話題にされる。

全文の対訳

"Quite so! You have not observed. And yet you have seen. That is just my point. Now, I know that there are seventeen steps, because I have both seen and observed. By the way, since you are interested in these little problems, and since you are good enough to chronicle one or two of my trifling experiences, you may be interested in this." He threw over a sheet of thick, pink-tinted notepaper which had been lying open upon the table. "It came by the last post," said he. "Read it aloud."

「そうだろう!きみは観察していないんだ。それでいて、見てはいる。そこが肝心なところだよ。さて、私は十七段あることを知っている。見て、しかも観察しているからだ。ところで、きみはこういうちょっとした謎に関心があるし、私のささやかな経験をひとつふたつ記録してくれてもいるから、これにも興味がわくかもしれないね」彼は、テーブルの上に広げて置いてあった厚手で淡い桃色の便箋を一枚、こちらへ放ってよこした。「最終便で届いたんだ」と彼は言った。「声に出して読んでくれたまえ」

The note was undated, and without either signature or address.

その手紙には日付がなく、署名も住所もなかった。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • trifling(トライフリング)… 取るに足らない・ささいな難
  • pink-tinted(ピンクティンティッド)… ピンクがかった・薄桃色の
  • chronicle(クロニクル)… 記録する・年代記に書く・年代記
  • notepaper(ノートペイパー)… 便箋・手紙用の紙
  • signature(シグナチャ)… 署名・サイン
  • observed(オブザーヴド)… 観察した・注意して見た(observe の過去分詞)
  • undated(アンデイティッド)… 日付のない
  • aloud(アラウド)… 声に出して

次の場面:謎の予告 A Mysterious Note

ワトソンが読み上げた手紙は、今夜八時十五分前に紳士が相談に訪れると告げ、訪問者が仮面をつけていても気を悪くしないでほしいと結ばれていた。何を意味するのかと尋ねるワトソンに、ホームズは材料のないうちに理屈を立てるのは誤りだと答え、手紙そのものから推理してみるよう促す。