Scene 09 · Notes

解説 場面 9「謎の予告」

この場面の解説

手紙は、今夜八時十五分前に仮面の紳士が重大な相談に訪れると予告していた。意味を問うワトソンに、ホームズは材料なしに理論を立てるのは誤りだと説き、手紙そのものを調べさせる。

表現・文法のポイント

a matter of the very deepest moment
moment は「瞬間」ではなく「重要性」の意味。of great moment で「きわめて重大な」という硬い言い方になる。very deepest と最上級をさらに強め、大げさなほど深刻さを訴えている。
do not take it amiss
take ~ amiss は「~を悪く取る、気を悪くする」という古風な表現。続く if your visitor wear a mask は wears ではなく原形 wear を使う仮定法現在で、改まった文語調の響きがある。
a capital mistake to theorise
capital は「首都」ではなく「重大な、致命的な」の意味(capital punishment=死刑と同じ発想)。theorise は英国式の綴りで、米国式なら theorize。ホームズの推理哲学を表す有名な一節である。
twist facts to suit theories
「理論に合うように事実をねじ曲げる」。直後の theories to suit facts と語順を入れ替えた対句になっていて、本来は事実に合わせて理論を作るべきだという主張がくっきり伝わる。

背景・時代

「八時十五分前」
a quarter to eight は「八時まであと四分の一時間」、つまり七時四十五分のこと。a quarter past eight なら八時十五分になる。時刻を quarter(十五分)で言うのは今も英語でよく使う言い方だ。

全文の対訳

"There will call upon you to-night, at a quarter to eight o'clock," it said, "a gentleman who desires to consult you upon a matter of the very deepest moment. Your recent services to one of the royal houses of Europe have shown that you are one who may safely be trusted with matters which are of an importance which can hardly be exaggerated. This account of you we have from all quarters received. Be in your chamber then at that hour, and do not take it amiss if your visitor wear a mask."

「今夜八時十五分前、ある紳士があなたのもとを訪れます」と手紙にはあった。「このうえなく重大な件で、ご相談したいとのことです。先ごろヨーロッパのある王家のためになさったお働きから、あなたが、どれほど言っても言い過ぎにならないほど重要な事柄を、安心して任せられる方だと分かっております。あなたについてのこの評判を、私どもはあらゆる方面から受け取っております。その時刻にはお部屋にいてください。また、訪問者が仮面をつけていても、気を悪くなさらないように」

"This is indeed a mystery," I remarked. "What do you imagine that it means?"

「これはまったく謎だね」と私は言った。「どういうことだと思うかい」

"I have no data yet. It is a capital mistake to theorise before one has data. Insensibly one begins to twist facts to suit theories, instead of theories to suit facts. But the note itself. What do you deduce from it?"

「まだ材料がない。材料もないうちに理屈を組み立てるのは、大きな間違いだよ。知らず知らずのうちに、事実に合わせて理屈を立てるのではなく、理屈に合わせて事実をねじ曲げはじめてしまうからね。だが、手紙そのものはどうだ。そこから何が推理できるかね」

I carefully examined the writing, and the paper upon which it was written.

私は筆跡と、それが書かれた紙とを、念入りに調べた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • amiss(アミス)… (take it amiss で)悪く取る・具合が悪い難
  • theorise(スィアライズ)… 理論を立てる・推論する(米綴りは theorize)難
  • insensibly(インセンスィブリ)… 知らず知らずのうちに・気づかないほど少しずつ難
  • exaggerated(イグザジャレイティッド)… 誇張された・大げさな
  • importance(インポータンス)… 重要性・重大さ
  • services(サーヴィスィズ)… 尽力・貢献(複数)・サービス
  • quarters(クウォータズ)… 方面・筋(複数)・宿舎・4分の1
  • remarked(リマークト)… 言った・述べた

次の場面:透かし模様 The Watermark

ワトソンはホームズにならって推理を試みる。高価で妙に丈夫な紙だから、書き手は裕福なのだろう。ホームズは「妙に」という言葉こそ要点だと応じ、イギリスの紙ではないと言って明かりにかざさせる。すると紙の地に、いくつかの文字が織り込まれていた。ワトソンは製造元の名か頭文字だと考える。