Scene 11 · Notes

解説 場面 11「地名辞典」

この場面の解説

ホームズは透かしの文字がドイツ語の「会社」と「紙」の略だと解き、大陸地名辞典で残るEgを調べてボヘミアの町エグリアを探し当てる。ワトソンは、紙がボヘミア製だと気づく。

表現・文法のポイント

Not at all.
相手の言ったことを「まるで違う」ときっぱり打ち消す言い方。お礼への返事「どういたしまして」としても使うが、ここは前の場面でワトソンが言った「製造元の名だろう」をホームズが否定している。
a customary contraction like our 'Co.'
contraction は「短縮形、略語」。英語で Company を Co. と略すように、ドイツ語では Gesellschaft を Gt. と書く慣わしだと説明している。our 'Co.' の our は「われわれ英国人の」という意味である。
Ha, ha, my boy, what do you make of that?
my boy は年下や親しい相手への親しみをこめた呼びかけ。謎が解けた得意げな気分が表れていて、直後の「目を輝かせ、勝ち誇った煙を吐いた」という描写とも響き合う。

背景・時代

ボヘミア
現在のチェコ西部にあたる地方。当時はオーストリア=ハンガリー帝国の一部で、ドイツ語を話す人も多かった。カールスバート(現カルロヴィ・ヴァリ)は温泉保養地として欧州の上流階級に知られた町である。
ヴァレンシュタイン
三十年戦争で皇帝軍を率いた将軍で、1634年にボヘミアのエーガー(現ヘプ)で暗殺された。作中の「エグリア」はこの町をもとにした名前と考えられる。

全文の対訳

"Not at all. The 'G' with the small 't' stands for 'Gesellschaft,' which is the German for 'Company.' It is a customary contraction like our 'Co.' 'P,' of course, stands for 'Papier.' Now for the 'Eg.' Let us glance at our Continental Gazetteer." He took down a heavy brown volume from his shelves. "Eglow, Eglonitz—here we are, Egria. It is in a German-speaking country—in Bohemia, not far from Carlsbad. 'Remarkable as being the scene of the death of Wallenstein, and for its numerous glass-factories and paper-mills.' Ha, ha, my boy, what do you make of that?" His eyes sparkled, and he sent up a great blue triumphant cloud from his cigarette.

「まるで違うよ。小さな『t』のついた『G』は『ゲゼルシャフト』の略で、ドイツ語で『会社』という意味だ。英語の『Co.』と同じ、よくある略し方だよ。『P』はもちろん、『パピーア』、つまり紙のことだ。さて、残るは『Eg』だ。大陸地名辞典をのぞいてみよう」彼は棚から、ずっしりした茶色の本を一冊取り出した。「エグロー、エグロニッツ、と……あった、エグリアだ。ドイツ語を話す国、ボヘミアにあって、カールスバートからそう遠くない。『ヴァレンシュタインが死んだ地として、また数多くのガラス工場と製紙工場によって知られる』ははあ、どうだい、きみ、これをどう見るかね」彼は目を輝かせ、勝ち誇ったように紙巻きたばこの青い煙を大きく吹き上げた。

"The paper was made in Bohemia," I said.

「その紙はボヘミアで作られたんだね」と私は言った。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • papier(パピーア)… 紙(ドイツ語 Papier)難
  • gazetteer(ギャゼティア)… 地名辞典難
  • glass-factories(グラースファクタリズ)… ガラス工場(複数)
  • contraction(カントラクション)… 短縮形・略語・収縮
  • continental(コンティネンタル)… ヨーロッパ大陸の・大陸の
  • paper-mills(ペイパミルズ)… 製紙工場(複数)
  • remarkable(リマーカブル)… 注目すべき・著しい
  • triumphant(トライアンファント)… 勝ち誇った・意気揚々とした

次の場面:ドイツ人の手紙 A German Hand

ホームズは手紙の妙な語順から、書き手がドイツ人だと断定する。動詞をあれほどぞんざいに扱うのはドイツ人だけだという。残る謎は、ボヘミアの紙に手紙を書き、顔を見せるより仮面を選ぶこの人物が何を望んでいるのかだ。そのとき表で馬車の止まる音がし、呼び鈴が鋭く鳴る。