Scene 13 · Notes

解説 場面 13「二頭立ての馬車」

この場面の解説

ホームズは蹄の音と窓からの一瞥で、上等な箱馬車と高価な二頭の馬を見抜き、少なくとも金にはなる事件だと言う。席を外そうとするワトソンを、彼は引き止める。

表現・文法のポイント

There's money in this case
There's money in ~ で「~は金になる」。続く if there is nothing else は「ほかに何もないとしても」で、「面白くなくとも少なくとも報酬は期待できる」というホームズらしい冗談まじりの言い方である。
I had better go
had better は「~したほうがよい」。ただ実際は強めの響きで、目上の人に向けると命令口調になりやすい。ここでは自分について言っているので、「私は失礼したほうがよさそうだ」と遠慮を表している。
I am lost without my Boswell
be lost without ~ で「~がいないとどうにもならない」。Boswell は人名だが、ここでは「伝記を書いてくれる記録係」の代名詞として使われ、記録役のワトソンを指している。

背景・時代

箱馬車(brougham)
御者が外の席に座り、客は屋根つきの箱型の車内に乗る小型の四輪馬車。ブルーム卿にちなむ名で、上品な自家用馬車として好まれた。ふつうは一頭立てで、二頭立てなのは裕福な証拠である。
ギニー
21シリング(1ポンド1シリング)にあたる金額の単位。金貨としての鋳造はすでに終わっていたが、馬や美術品、医師や弁護士の謝礼など高級なものの値段はギニーで言う習慣が残っていた。
ボズウェル
18世紀の文人サミュエル・ジョンソンの言行を詳しく記録した伝記作家ジェイムズ・ボズウェルのこと。ホームズは自分の事件を書き残すワトソンを、この有名な伝記作家になぞらえている。

全文の対訳

"A pair, by the sound," said he. "Yes," he continued, glancing out of the window. "A nice little brougham and a pair of beauties. A hundred and fifty guineas apiece. There's money in this case, Watson, if there is nothing else."

「音からすると、二頭立てだな」と彼は言った。「やはりそうだ」と彼は窓の外をちらりと見ながら続けた。「小ぶりで上等な箱馬車に、見事な馬が二頭。一頭あたり百五十ギニーはするね。ワトソン、この事件はほかに何もなくとも、金にだけはなるよ」

"I think that I had better go, Holmes."

「ホームズ、私は失礼したほうがよさそうだね」

"Not a bit, Doctor. Stay where you are. I am lost without my Boswell. And this promises to be interesting. It would be a pity to miss it."

「とんでもない、先生。そのままいてくれたまえ。記録係のボズウェルがいなくては、私はお手上げなんだ。それに、これは面白くなりそうだ。見逃すのは惜しいよ」

"But your client—"

「でも、きみの依頼人が――」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • brougham(ブルーアム)… ブルーム型馬車(一頭または二頭立ての箱型四輪馬車)難
  • guineas(ギニーズ)… ギニー(英国の旧金貨・21シリング)の複数難
  • glancing(グラーンスィング)… ちらりと見ながら・ちらっと見ること
  • beauties(ビューティーズ)… 見事なもの(ここでは美しい馬たち)・美人たち
  • apiece(アピース)… 1つ(1頭)につき・それぞれ
  • client(クライアント)… 依頼人・顧客
  • pity(ピティ)… 残念なこと・哀れみ

次の場面:重い足音 A Heavy Step

遠慮して帰ろうとするワトソンを、ホームズは、きみの助けが要るかもしれないし依頼人もそうかもしれないと引き止め、肘掛け椅子に座らせる。やがて階段から廊下へと上ってきたゆっくりと重い足音が戸口の前で止まり、威厳のあるノックが響く。ホームズは客を招き入れる。