Scene 16 · Notes

解説 場面 16「伯爵の名乗り」

この場面の解説

仮面の男は強いドイツなまりで手紙は届いたかと尋ねる。ホームズがワトソンを紹介して名を問うと、男はボヘミアの貴族フォン・クラム伯爵と名乗り、信用できないなら二人だけで話したいと言う。

表現・文法のポイント

You had my note?
have はここで「受け取った」の意味で、Did you receive my note? と同じ。平叙文の語順のまま語尾を上げる疑問は、確認の響きになる。前置きもないぶっきらぼうな問いに、人に命じ慣れた口調が出ている。
who is occasionally good enough to help me
be good enough to do は「親切にも~してくれる」という丁寧な言い方。kind enough to と同じ。友人を客に紹介しつつ、ワトソンへの感謝もさりげなく込めている。
Whom have I the honour to address?
「どなたとお話しする光栄に浴しているのでしょうか」という非常に改まった名前の尋ね方。have I と倒置した古い疑問の形で、Who are you? をこの上なく丁寧にしたものだ。
a man of honour and discretion
a man of ~ で「~を備えた人」。honour は「名誉を重んじる心」、discretion は「分別、口の堅さ」。秘密の相談をする相手に求められる資質を並べている。honour は英国式の綴り。

背景・時代

「伯爵」と名乗る意味
男は「フォン・クラム伯爵と呼んでもらいたい」と言うだけで、それが本名だとは言っていない。you may address me as は「~と呼んでよい」という言い方で、仮面と同じく素性を伏せる言葉選びになっている。

全文の対訳

"You had my note?" he asked with a deep harsh voice and a strongly marked German accent. "I told you that I would call." He looked from one to the other of us, as if uncertain which to address.

「私の手紙は届いたか」と彼は、低くしわがれた声と、ひどく目立つドイツなまりで尋ねた。「訪ねると知らせておいたはずだ」彼はどちらに話しかけたものか迷うように、私たち二人を見比べた。

"Pray take a seat," said Holmes. "This is my friend and colleague, Dr. Watson, who is occasionally good enough to help me in my cases. Whom have I the honour to address?"

「どうぞおかけください」とホームズは言った。「こちらは友人で同僚の、医師のワトソンです。ときどき親切にも、私の事件を手伝ってくれています。失礼ですが、どなたでいらっしゃいますか」

"You may address me as the Count Von Kramm, a Bohemian nobleman. I understand that this gentleman, your friend, is a man of honour and discretion, whom I may trust with a matter of the most extreme importance. If not, I should much prefer to communicate with you alone."

「ボヘミアの貴族、フォン・クラム伯爵と呼んでもらいたい。こちらの紳士、君の友人は、名誉を重んじる口の堅い人物で、きわめて重大な用件を任せてもよい相手だと理解してよいのだろうな。そうでないなら、ぜひ君と二人きりで話したいのだが」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • occasionally(オケイジョナリ)… 時々・時折
  • communicate(コミューニケイト)… 話し合う・伝える・意思疎通する
  • discretion(ディスクレション)… 口の堅さ・分別・裁量
  • importance(インポータンス)… 重要性・重大さ
  • uncertain(アンサートン)… 確信がない・不確かな
  • colleague(コリーグ)… 同僚・仲間
  • bohemian(ボウヒーミアン)… ボヘミアン的な(世間のしきたりに縛られない)
  • nobleman(ノウブルマン)… 貴族(の男性)

次の場面:秘密の誓い A Vow of Secrecy

席を立とうとするワトソンを、ホームズは手首をつかんで椅子に引き戻し、話すなら二人そろって聞くと言い切る。伯爵は二人に二年間の絶対の秘密を誓わせ、事はヨーロッパの歴史を左右しかねないと打ち明ける。さらに仮面の非礼をわび、名乗った称号は本当は自分のものではないと認める。