Scene 18 · Notes

解説 場面 18「ボヘミア王家」

この場面の解説

伯爵は、事が醜聞になればボヘミアの世襲の王家オルムシュタイン家が深く傷つくと明かす。ホームズは目を閉じて椅子に沈み込み、驚く客に向かって「陛下」と呼びかける。

表現・文法のポイント

of great delicacy
of+抽象名詞は形容詞と同じ働きをし、of great delicacy は very delicate(きわめて微妙な)に当たる。of importance=important と同じ型で、改まった、重々しい響きになる。
seriously compromise one of the reigning families
compromise はここでは「妥協する」ではなく「(評判・立場を)危うくする、傷つける」。reigning は「現に王位にある」の意で、reigning families は今まさに国を治めている王家を指す。
no doubt depicted to him as
no doubt は「きっと、疑いなく」という副詞的な挿入。had been depicted は過去完了の受動態で、客がここに来る前からホームズは名探偵だと聞かされていたことを表す。期待と目の前のけだるい姿との落差が笑いを誘う。
If your Majesty would condescend to state your case
condescend to 〜 は「身分の高い人がわざわざ〜してくださる」。Your Majesty は「陛下」で、国王への敬称だ。ていねいな言葉づかいの裏に、正体を見抜いたぞという皮肉が込められている。

背景・時代

ボヘミア
ボヘミアは現在のチェコ西部にあたる地域で、物語の当時はオーストリア=ハンガリー帝国の一部だった。作中のボヘミア王家オルムシュタイン家は架空の設定である。

全文の対訳

"The circumstances are of great delicacy, and every precaution has to be taken to quench what might grow to be an immense scandal and seriously compromise one of the reigning families of Europe. To speak plainly, the matter implicates the great House of Ormstein, hereditary kings of Bohemia."

「事情はきわめて微妙なのだ。大きな醜聞に育ちかねない火種を消し止め、ヨーロッパの君主家のひとつがひどく傷つくのを防ぐため、あらゆる用心をしなければならない。はっきり言えば、この件には、代々ボヘミアの王位を継ぐ名門、オルムシュタイン家が関わっているのだ」

"I was also aware of that," murmured Holmes, settling himself down in his armchair and closing his eyes.

「それも存じておりました」とホームズはつぶやき、肘掛け椅子に深く身を沈めて目を閉じた。

Our visitor glanced with some apparent surprise at the languid, lounging figure of the man who had been no doubt depicted to him as the most incisive reasoner and most energetic agent in Europe. Holmes slowly reopened his eyes and looked impatiently at his gigantic client.

客はいくらか驚いた様子で、けだるそうに椅子にもたれる男の姿を見やった。ヨーロッパでいちばん鋭い推理家で、いちばん精力的な探偵だと、きっと聞かされてきた男である。ホームズはゆっくりと目を開け、巨体の依頼人をもどかしげに見た。

"If your Majesty would condescend to state your case," he remarked, "I should be better able to advise you."

「陛下ご自身が事情をお話しくださるなら」と彼は言った。「もっとよいご助言ができるのですが」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • quench(クウェンチ)… (火を)消す・抑える・(渇きを)いやす難
  • implicates(インプリケイツ)… 巻き込む・関わらせる・(罪に)関係させる難
  • hereditary(ヘレディタリー)… 代々の・世襲の・遺伝性の難
  • languid(ラングウィッド)… けだるそうな・物憂げな・元気のない難
  • incisive(インサイスィヴ)… 鋭い・切れ味のある難
  • condescend(コンディセンド)… (目下の者に)わざわざ〜してくださる・へりくだる・見下す難
  • circumstances(サーカムスタンスィズ)… 事情・状況(複数)
  • impatiently(インペイシェントリー)… もどかしげに・いらいらして

次の場面:仮面を外す The Mask Comes Off

正体を言い当てられた男は椅子から跳び上がって部屋を歩き回り、ついに仮面をむしり取って床に投げつける。自分こそ国王だと認める彼に、ホームズは話を聞く前から分かっていたと告げる。国王は、事が微妙すぎて代理人には任せられず、身分を隠してプラハから来たのだと語る。