Scene 19 · Notes

解説 場面 19「仮面を外す」

この場面の解説

正体を言い当てられた男は仮面をむしり取り、自分が国王だと認める。事が微妙すぎて代理人には任せられず、身分を隠してプラハから来たと語る国王に、ホームズは目を閉じたまま相談を促す。

表現・文法のポイント

sprang from his chair
sprang は spring(跳ぶ)の過去形で、spring-sprang-sprung と変化する。「椅子から跳び上がった」で、正体を見破られた男の驚きと動揺が一語で伝わる。
paced up and down the room
pace up and down は「(落ち着かずに)行ったり来たりする」。up and down は上下ではなく「端から端まで往復して」の意味で、考え込んだりいらだったりする人物の描写によく使われる。
Why, indeed?
国王の「なぜ隠す必要があろう」という言葉をそのまま受け、indeed を添えて「まったく、なぜでしょうね」と返している。同意の形をとりながら、とうに見抜いていたので隠しても無駄だったという皮肉がこもる。
putting myself in his power
put oneself in 人's power は「人の思うままにされる立場に身を置く」。秘密を代理人に打ち明ければ、その代理人に弱みを握られてしまう、という意味だ。国王が自ら来た理由をよく表している。

背景・時代

pray
Pray consult のように文頭に置かれる pray は「どうぞ」の意で、I pray you の略。19世紀の英語では礼儀正しい依頼の決まり文句だったが、現代ではほぼ使われず、古風な響きがする。
お忍び(incognito)
incognito は「身分を隠して、お忍びで」。王侯貴族が公式の身分を伏せて旅をするときに使われた語である。国王が偽の称号を名乗り仮面まで着けていたのは、この訪問が誰にも知られてはならないものだったからだ。

全文の対訳

The man sprang from his chair and paced up and down the room in uncontrollable agitation. Then, with a gesture of desperation, he tore the mask from his face and hurled it upon the ground. "You are right," he cried; "I am the King. Why should I attempt to conceal it?"

男は椅子から跳び上がり、抑えきれない興奮に駆られて部屋の中を行ったり来たりした。それから、やけになったような身ぶりで、仮面を顔からむしり取って床に投げつけた。「そのとおりだ」と彼は叫んだ。「私が国王だ。隠し立てしたところで何になろう」

"Why, indeed?" murmured Holmes. "Your Majesty had not spoken before I was aware that I was addressing Wilhelm Gottsreich Sigismond von Ormstein, Grand Duke of Cassel-Felstein, and hereditary King of Bohemia."

「まったくです」とホームズはつぶやいた。「陛下がお話しになる前から、私はお相手がヴィルヘルム・ゴッツライヒ・ジギスモント・フォン・オルムシュタイン、すなわちカッセル=フェルシュタイン大公にしてボヘミアの世襲の国王であると分かっておりました」

"But you can understand," said our strange visitor, sitting down once more and passing his hand over his high white forehead, "you can understand that I am not accustomed to doing such business in my own person. Yet the matter was so delicate that I could not confide it to an agent without putting myself in his power. I have come incognito from Prague for the purpose of consulting you."

「だが、分かってもらえるだろう」と奇妙な客は、ふたたび腰を下ろし、高く白い額を手でなでながら言った。「こういう用件を自ら行うことに、私は慣れていないのだ。だが事があまりに微妙で、代理人に任せれば、その者に弱みを握られることになってしまう。それで君に相談するために、身分を隠してプラハからやって来たのだ」

"Then, pray consult," said Holmes, shutting his eyes once more.

「では、どうぞご相談ください」とホームズは言い、また目を閉じた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • hereditary(ヘレディタリー)… 代々の・世襲の・遺伝性の難
  • incognito(インコグニートウ)… 身分を隠して・お忍びで難
  • uncontrollable(アンコントロウラブル)… 抑えきれない・手に負えない
  • desperation(デスパレイション)… やけ・自暴自棄・必死
  • accustomed(アカスタムド)… 慣れている(be accustomed to)・いつもの
  • consulting(コンサルティング)… 相談すること・意見を求めること
  • agitation(アジテイション)… (心の)動揺・興奮・扇動
  • murmured(マーマド)… つぶやいた・ささやいた

次の場面:アイリーン・アドラー Irene Adler

国王はついに事情を語りはじめる。五年ほど前、ワルシャワに長く滞在したとき、名高い妖婦アイリーン・アドラーと知り合ったという。ホームズは目を閉じたまま、ワトソンに自分の索引を引かせて彼女の経歴を読み上げ、国王が彼女に送った手紙を取り戻したがっていると言い当てる。