Scene 25 · Notes

解説 場面 25「鋼の心の女」

この場面の解説

アイリーン・アドラーの狙いは国王の破滅だと明かされる。国王は王女との縁談を控えており、彼女が写真を送りつければ縁談は壊れると恐れている。

表現・文法のポイント

She is herself the very soul of delicacy.
the very soul of ~ は「~そのもの、~の権化」。very は名詞の前で「まさにその」と強める用法だ。delicacy はここでは「繊細さ・慎み深さ」で、少しの醜聞にも耐えられない人柄を言っている。
A shadow of a doubt as to my conduct
a shadow of a doubt は「ほんのわずかな疑い」。as to ~ は「~に関して」。主語が長い名詞句で、それが would bring the matter to an end(縁談を終わらせるだろう)と続く仮定的な言い方になっている。
there are no lengths to which she would not go
go to any lengths(どんなことでもする)を裏返した二重否定。「彼女がやらないような極端な手段は一つもない」=何でもやる、という意味だ。最後の—none で念を押している。

背景・時代

王家の縁組
当時のヨーロッパの王族の結婚は国と国との結びつきでもあった。相手の家が厳格な家風であれば、過去の女性関係が表に出るだけで破談になりかねない。国王が写真一枚にここまでおびえる理由がここにある。

全文の対訳

"To ruin me."

「私を破滅させるためだ」

"But how?"

「しかし、どうやって?」

"I am about to be married."

「私は近く結婚することになっている」

"So I have heard."

「そのように伺っております」

"To Clotilde Lothman von Saxe-Meningen, second daughter of the King of Scandinavia. You may know the strict principles of her family. She is herself the very soul of delicacy. A shadow of a doubt as to my conduct would bring the matter to an end."

「相手はスカンジナビア国王の第二王女、クロティルド・ロスマン・フォン・ザクセ=メニンゲンだ。あの家の厳格な家風は知っているだろう。王女自身も、慎み深さそのもののような人だ。私のふるまいにわずかでも疑いの影が差せば、この話は終わりになってしまう」

"And Irene Adler?"

「それで、アイリーン・アドラーは?」

"Threatens to send them the photograph. And she will do it. I know that she will do it. You do not know her, but she has a soul of steel. She has the face of the most beautiful of women, and the mind of the most resolute of men. Rather than I should marry another woman, there are no lengths to which she would not go—none."

「写真を先方へ送りつけると脅しているのだ。そして、あの女は本当にやる。やるに決まっているのだ。あの女を知らぬだろうが、彼女は鋼のような心の持ち主なのだ。顔は女のうちで最も美しく、心は男のうちで最も意志が強い。私がほかの女と結婚するくらいなら、あの女はどんなことでもやってのける――どんなことでもだ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • principles(プリンスィプルズ)… 主義・信条・原理(複数)
  • threatens(スレトゥンズ)… 脅す(threaten の3人称単数)・〜するおそれがある
  • delicacy(デリカスィ)… 微妙さ・扱いにくさ・繊細さ・珍味
  • resolute(レゾルート)… 断固とした・意志の固い
  • conduct(コンダクト)… 行い・品行・振る舞い
  • lengths(レングスス)… (no lengths で)どんな手段も辞さない・長さ(複数)
  • strict(ストリクト)… 厳格な・厳しい
  • shadow(シャドウ)… (疑いの)わずかな気配(a shadow of a doubt)・影

次の場面:猶予は三日 Three Days' Grace

アイリーン・アドラーは、婚約が公に発表される日に写真を送ると言っているという。発表は次の月曜日で、残りはあと三日。ホームズはあくびまじりに、それなら好都合だと落ち着き払っている。国王はフォン・クラム伯爵の名でランガム・ホテルに泊まり、ホームズからの知らせを待つことになる。