Scene 30 · Notes

解説 場面 30「酔いどれ馬丁」

この場面の解説

四時近く、酔っ払いのような馬丁が部屋に入ってくる。ワトソンが三度見直してようやく気づくほど見事な、ホームズの変装だった。着替えたホームズは笑いころげ、午前中の行動を当ててみろと言う。

表現・文法のポイント

It was close upon four before the door opened
close upon は「~に近い」で、今なら close to と言う。It was ~ before ... は「…するまでに~になった」。待ちくたびれた時間の長さが伝わる言い方だ。
Accustomed as I was to
形容詞+as+主語+動詞 で「~ではあったが」という譲歩を表す。Though I was accustomed to ~ と同じ意味だ。慣れていたのに三度も見直した、と変装の見事さを強調している。
whence he emerged in five minutes
whence は「そこから」を表す古い関係副詞で、from which と同じ。寝室に消え、そこから五分で出てきた、と流れるように続けている。今では文語でしか見かけない。

背景・時代

馬丁(グルーム)
groom は馬の世話をする使用人。馬車が主な交通手段だった当時、どの家や厩舎にも欠かせない仕事だった。身なりの悪い馬丁なら、街をうろついていても誰も怪しまない。

全文の対訳

It was close upon four before the door opened, and a drunken-looking groom, ill-kempt and side-whiskered, with an inflamed face and disreputable clothes, walked into the room. Accustomed as I was to my friend's amazing powers in the use of disguises, I had to look three times before I was certain that it was indeed he. With a nod he vanished into the bedroom, whence he emerged in five minutes tweed-suited and respectable, as of old. Putting his hands into his pockets, he stretched out his legs in front of the fire and laughed heartily for some minutes.

四時近くになってようやく扉が開き、酔っ払いのような馬丁が部屋に入ってきた。髪はぼさぼさで頬ひげを生やし、顔は赤く火照り、みすぼらしい服を着ている。友人の驚くべき変装の腕前には慣れていたつもりだったが、それが本当に彼だと確信するまでに、私は三度も見直さなければならなかった。彼はうなずいて寝室へ消え、五分後には、ツイードの背広を着た、いつもどおりのきちんとした姿で出てきた。両手をポケットに突っ込み、暖炉の前に脚を投げ出すと、彼は何分ものあいだ腹の底から笑いつづけた。

"Well, really!" he cried, and then he choked and laughed again until he was obliged to lie back, limp and helpless, in the chair.

「いやはや、まったく!」と彼は叫び、それからむせて、また笑い、とうとう椅子の背にぐったりともたれかかって動けなくなってしまった。

"What is it?"

「どうしたんだい?」

"It's quite too funny. I am sure you could never guess how I employed my morning, or what I ended by doing."

「いや、あまりに滑稽でね。私が午前中をどう過ごしたか、最後に何をする羽目になったか、きみには決して当てられないだろうよ」

"I can't imagine. I suppose that you have been watching the habits, and perhaps the house, of Miss Irene Adler."

「見当もつかないね。アイリーン・アドラー嬢の暮らしぶりや、ひょっとすると家のほうも、見張っていたんだろう」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • ill-kempt(イルケンプト)… 身なりのだらしない・手入れの悪い難
  • side-whiskered(サイドウィスカード)… 頬ひげを生やした難
  • disreputable(ディスレピュタブル)… みすぼらしい・いかがわしい・評判の悪い難
  • whence(ウェンス)… そこから(古風)・どこから難
  • tweed-suited(ツイードスーティッド)… ツイードの背広を着た難
  • drunken-looking(ドランクンルッキング)… 酔っぱらったような様子の
  • respectable(リスペクタブル)… 立派な・きちんとした・まともな
  • accustomed(アカスタムド)… 慣れている(be accustomed to)・いつもの

次の場面:ブライオニー荘 Briony Lodge

ホームズは午前中の出来事を語りはじめる。職にあぶれた馬丁に化けて出かけた彼は、ブライオニー荘を見つけ、その造りを外から細かく調べ上げた。さらに近くの厩舎で馬の手入れを手伝い、その礼に、アドラー嬢についての話をたっぷり聞き出したという。