Scene 32 · Notes

解説 場面 32「厩舎のうわさ」

この場面の解説

厩舎の男たちによれば、アイリーン・アドラーは近所の男を夢中にさせる美人で、静かに規則正しく暮らしている。訪ねてくる男性はただ一人、ゴドフリー・ノートンという弁護士だ。

表現・文法のポイント

she has turned all the men's heads
turn someone's head は「(美しさなどで)人を夢中にさせる、のぼせ上がらせる」。思わず振り返る、というイメージだ。down in that part は「あのあたりで」の口語的な言い方。
So say the Serpentine-mews, to a man.
So say ~ は「~はそう言っている」の倒置。to a man は「一人残らず、満場一致で」。ここでの the Serpentine-mews は場所でなく、そこで働く人たちを指している。
Has only one male visitor, but a good deal of him.
主語の She が省かれたメモ風の話し方。a good deal of him は「彼のことはたっぷり」で、訪問者は一人だが頻繁に来る、という意味をしゃれて言っている。

背景・時代

インナー・テンプル
ロンドンにある法曹学院(インズ・オブ・コート)の一つ。法廷弁護士(バリスター)になるにはこうした学院に所属する必要があった。of the Inner Temple で、ノートンが弁護士だとわかる。

全文の対訳

"And what of Irene Adler?" I asked.

「それで、アイリーン・アドラーはどうなんだい?」と私は尋ねた。

"Oh, she has turned all the men's heads down in that part. She is the daintiest thing under a bonnet on this planet. So say the Serpentine-mews, to a man. She lives quietly, sings at concerts, drives out at five every day, and returns at seven sharp for dinner. Seldom goes out at other times, except when she sings. Has only one male visitor, but a good deal of him. He is dark, handsome, and dashing, never calls less than once a day, and often twice. He is a Mr. Godfrey Norton, of the Inner Temple. See the advantages of a cabman as a confidant. They had driven him home a dozen times from Serpentine-mews, and knew all about him. When I had listened to all they had to tell, I began to walk up and down near Briony Lodge once more, and to think over my plan of campaign.

「いやあ、あのあたりの男たちはみんな彼女に夢中だよ。ボンネットをかぶった者のなかでは、この地上でいちばん可憐な女性だそうだ。サーペンタイン通りの厩舎の連中が、一人残らずそう言うのさ。静かに暮らし、演奏会で歌い、毎日五時に馬車で出かけ、七時きっかりに夕食に戻ってくる。歌うとき以外に出かけることはめったにない。男の訪問客はただ一人だが、その男はしょっちゅうやって来る。浅黒く、端正で、颯爽とした男で、毎日少なくとも一度は訪ねてきて、二度来ることも多い。インナー・テンプルのゴドフリー・ノートン氏という人物だ。御者を話し相手にするとどれほど得か、わかるだろう。連中はサーペンタイン通りの厩舎から彼を何度も家まで送っていて、彼のことなら何でも知っていた。聞けることを全部聞いてしまうと、私はもう一度ブライオニー荘の近くを行ったり来たりしながら、作戦を練りはじめた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • daintiest(デインティエスト)… いちばん可憐な・最も上品な(dainty の最上級)難
  • bonnet(ボニット)… ボンネット(あごひもで結ぶ婦人帽)・(英)車のボンネット難
  • cabman(キャブマン)… (辻馬車の)御者・タクシー運転手難
  • confidant(コンフィダント)… (秘密を打ち明けられる)話し相手・腹心の友難
  • advantages(アドヴァンティジズ)… 利点・強み(複数)
  • handsome(ハンサム)… 端正な・顔立ちのよい・立派な
  • campaign(キャンペイン)… 作戦・(組織的な)運動・選挙運動
  • dashing(ダッシング)… 颯爽とした・威勢のよい

次の場面:弁護士の影 The Lawyer

毎日のように訪ねてくるゴドフリー・ノートンは弁護士だった。アドラー嬢は彼の依頼人なのか、友人なのか、それとも愛人なのか。その答えしだいで、写真のありかの見当も変わってくる。ホームズはブライオニー荘の近くで、どちらに調べを向けるべきか考えあぐねる。