Scene 36 · Notes

解説 場面 36「教会へ」

この場面の解説

ホームズが聖モニカ教会に着くと、二台の馬車が入口に止まっていた。暇人を装って中へ入ったホームズに、突然ゴドフリー・ノートンが駆け寄ってくる。

表現・文法のポイント

My cabby drove fast
cabby は cab の御者(運転手)をくだけて呼ぶ語。今でもタクシー運転手を cabby / cabbie と言うことがある。drive fast は「飛ばす」。短い文で一気に場面を進めている。
Thank God
「ありがたい」「助かった」という安堵の叫び。ノートンはちょうどよい人が来たと喜んでいるのだが、その「人」が変装したホームズだという皮肉がこの場面の面白さだ。
or it won't be legal
or は命令文の後で「さもないと」。only three minutes と合わせ、時間内に式を終えなければ結婚が法的に成立しないと焦っている。legal は「合法の・法的に有効な」。

背景・時代

結婚式の時間制限
当時の英国国教会の結婚式は、法律で定められた時間内に挙げなければ有効にならなかった。作中では正午が期限として描かれ、ノートンが「あと三分」と慌てるのはそのためである。

全文の対訳

"My cabby drove fast. I don't think I ever drove faster, but the others were there before us. The cab and the landau with their steaming horses were in front of the door when I arrived. I paid the man and hurried into the church. There was not a soul there save the two whom I had followed and a surpliced clergyman, who seemed to be expostulating with them. They were all three standing in a knot in front of the altar. I lounged up the side aisle like any other idler who has dropped into a church. Suddenly, to my surprise, the three at the altar faced round to me, and Godfrey Norton came running as hard as he could towards me.

「私の乗った辻馬車は飛ばした。あれほど速く馬車で走ったことはないと思うが、それでも二人のほうが先に着いていた。私が着いたとき、湯気を立てる馬をつけた辻馬車と四輪馬車が、入口の前に止まっていた。私は御者に金を払い、急いで教会に入った。中には、私が追ってきた二人と白い法衣の牧師のほかには人っ子ひとりおらず、牧師は二人に何か言い聞かせているようだった。三人は祭壇の前でひとかたまりになって立っていた。私は、ふらりと教会に立ち寄った暇人のような顔をして、側廊をぶらぶらと進んだ。すると驚いたことに、祭壇の三人がいきなりこちらへ振り向き、ゴドフリー・ノートンが全速力で私のほうへ駆けてきたのだ。

"'Thank God,' he cried. 'You'll do. Come! Come!'

「『ありがたい』と彼は叫んだ。『君でいい。来てくれ!来てくれ!』

"'What then?' I asked.

「『どういうことです?』と私は尋ねた。

"'Come, man, come, only three minutes, or it won't be legal.'

「『さあ、君、来てくれ、あと三分しかない、でないと法的に無効になってしまう』

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • cabby(キャビー)… 辻馬車の御者・タクシー運転手難
  • landau(ランドー)… ランドー馬車(幌付き四輪馬車)難
  • surpliced(サープリスト)… (白い)法衣を着た難
  • clergyman(クラージマン)… 牧師・聖職者難
  • expostulating(イクスポスチュレイティング)… いさめている・抗議している難
  • idler(アイドラ)… 怠け者・ぶらぶらしている人難
  • steaming(スティーミング)… 湯気を立てている
  • hurried(ハリッド)… 急いで行った・急いだ

次の場面:思わぬ立会人 The Unexpected Witness

祭壇の前へ引っ張られたホームズは、わけもわからぬまま誓いの言葉を繰り返し、アイリーン・アドラーとゴドフリー・ノートンの結婚の立会人を務めることになる。礼にもらった金貨を記念に時計の鎖につけるつもりだと笑うホームズに、ワトソンはその先を尋ねる。