Scene 48 · Notes

解説 場面 48「運び込まれる男」

この場面の解説

倒れた紳士のけがを気づかうアイリーン・アドラーに、群衆は口々に死んだ、まだ息があると叫ぶ。通りに寝かせてはおけないと言われ、彼女は居間へ運び込むよう告げる。

表現・文法のポイント

there's life in him
「彼にはまだ命がある」=まだ息がある。死んだという声を打ち消す言い方で、there is life in 〜 は「〜にまだ生気・元気がある」という比喩にも使う。
he'll be gone before you can get him to hospital
be gone は「いなくなる」から転じて「死んでしまう」の婉曲表現。go to hospital と冠詞をつけないのはイギリス英語の特徴で、アメリカ英語では to the hospital と言う。
if it hadn't been for him
if it had not been for 〜 は仮定法過去完了で「(あのとき)〜がなかったら」。主節の would have had と組んで、実際には起きなかった過去の事態を述べている。have はここで「奪う、手に入れる」の意。
May we bring him in, marm?
marm は madam を縮めた ma'am をなまって発音したもので、庶民が身分の高い女性に呼びかける言葉。せりふのつづりで話し手の階級やなまりを表している。

背景・時代

居間(sitting-room)
家族が日中くつろぎ、客を迎える部屋。ホームズがワトソンに見張らせると言った窓は、この居間の窓だった。彼女自身が運び込む先を指示する場面で、段取りがつながっていく。

全文の対訳

"Is the poor gentleman much hurt?" she asked.

「お気の毒に、その方はひどいおけがですか?」と彼女は尋ねた。

"He is dead," cried several voices.

「死んでいる」と何人もの声が叫んだ。

"No, no, there's life in him!" shouted another. "But he'll be gone before you can get him to hospital."

「いや、いや、まだ息があるぞ!」と別の者が叫んだ。「だが、病院に運ぶ前に死んじまうだろう」

"He's a brave fellow," said a woman. "They would have had the lady's purse and watch if it hadn't been for him. They were a gang, and a rough one, too. Ah, he's breathing now."

「勇敢な人だよ」と一人の女が言った。「この人がいなかったら、奥様は財布も時計も取られていたよ。あいつらは一味で、しかも荒っぽい連中だった。ああ、ほら、息をしてる」

"He can't lie in the street. May we bring him in, marm?"

「通りに寝かせておくわけにはいかねえ。中へ運び込んでもいいですかい、奥さん?」

"Surely. Bring him into the sitting-room. There is a comfortable sofa. This way, please!"

「もちろんです。居間へ運んでください。座り心地のいいソファがありますから。こちらです、どうぞ!」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • marm(マーム)… 奥さん(ma'am の口語・方言形)難
  • breathing(ブリーズィング)… 息をしている・呼吸
  • fellow(フェロウ)… 男・やつ・仲間
  • surely(ショーリ)… もちろん・きっと・確かに
  • purse(パース)… 財布・(米)ハンドバッグ
  • gang(ギャング)… 一味・ギャング・仲間の集団
  • sofa(ソウファ)… ソファ・長椅子

次の場面:窓辺の決意 Resolve at the Window

運び込まれたホームズは主室のソファに横たえられ、ワトソンは窓のそばの持ち場からその様子を見守る。けが人をかいがいしく介抱する美しい女性を目にして、彼は心から自分を恥じる。それでも、ホームズに託された役目をいまさら投げ出すわけにはいかない。ワトソンは心を鬼にして、外套の下から発煙筒を取り出す。