Scene 49 · Notes

解説 場面 49「窓辺の決意」

この場面の解説

運び込まれたホームズはブライオニー荘の主室に横たえられる。ワトソンは窓辺の持ち場から、そのなりゆきをじっと見守っている。

表現・文法のポイント

Slowly and solemnly he was borne
borne は bear(運ぶ)の過去分詞で、was borne は「運ばれた」という受け身。副詞を文頭に置いて、葬列のようにものものしい運ばれ方を印象づけている。けが人を装ったホームズへのワトソンの皮肉も感じられる。
laid out in the principal room
laid out は lay out(横たえる・寝かせる)の過去分詞で、was borne と並んで受け身になっている。lay out は遺体を安置する意味にも使うため、重々しい響きがある。principal room は「家でいちばん主要な部屋」、つまり居間のこと。
observed the proceedings
proceedings は「成り行き・一連の出来事」。法律では「訴訟手続き」、会議では「議事」の意味になる硬い語だ。騒ぎを少し距離を置いて冷静に眺める、記録者ワトソンらしい言い回しである。
from my post by the window
post はここでは「郵便」ではなく「持ち場・部署」。兵士の見張り位置にも使う語で、元軍医ワトソンが役目を任された心構えがにじむ。by the window は「窓のそばの」で post を後ろから説明している。

背景・時代

ブライオニー荘
アイリーン・アドラーが住むロンドン郊外セント・ジョンズ・ウッドの小さな邸宅。Lodge は門番小屋や小ぶりの屋敷を指す語で、ホームズは前もってこの家の間取りや窓の位置を下見していた。

全文の対訳

Slowly and solemnly he was borne into Briony Lodge and laid out in the principal room, while I still observed the proceedings from my post by the window. The lamps had been lit, but the blinds had not been drawn, so that I could see Holmes as he lay upon the couch. I do not know whether he was seized with compunction at that moment for the part he was playing, but I know that I never felt more heartily ashamed of myself in my life than when I saw the beautiful creature against whom I was conspiring, or the grace and kindliness with which she waited upon the injured man. And yet it would be the blackest treachery to Holmes to draw back now from the part which he had intrusted to me. I hardened my heart, and took the smoke-rocket from under my ulster. After all, I thought, we are not injuring her. We are but preventing her from injuring another.

彼はゆっくりと厳かにブライオニー荘へ運び込まれ、いちばん大きな部屋に横たえられたが、そのあいだも私は窓のそばの持ち場から成り行きを見守っていた。ランプはともされていたが、ブラインドは下ろされていなかったので、ソファに横たわるホームズの姿が私にも見えた。そのとき彼が自分の演じている役に良心の呵責を覚えていたかどうかは知らないが、私のほうは、自分が陰謀を企てている相手の美しい女性を、そして彼女がけが人を介抱するしとやかさと優しさを目にしたときほど、心の底から自分を恥じたことは、生涯一度もなかった。とはいえ、ホームズに託された役目からいまさら手を引くのは、彼に対するこのうえない裏切りになるだろう。私は心を鬼にして、アルスター外套の下から発煙筒を取り出した。結局のところ、私たちは彼女を傷つけようとしているわけではない、と私は考えた。彼女がほかの者を傷つけるのを防ごうとしているだけなのだ。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • compunction(コンパンクション)… 良心の呵責・気のとがめ難
  • conspiring(コンスパイアリング)… 陰謀を企てている・共謀している難
  • intrusted(イントラスティッド)… 託した・任せた(entrusted の古いつづり)難
  • smoke-rocket(スモークロケット)… 発煙筒(配管の漏れを調べる煙の出る筒)難
  • ulster(アルスタ)… アルスター外套(丈の長いゆったりしたコート)難
  • proceedings(プロスィーディングズ)… 成り行き・一連の出来事・訴訟手続き
  • kindliness(カインドリネス)… 優しさ・親切さ
  • preventing(プリヴェンティング)… 防いでいる・妨げている

次の場面:火事だ! The Cry of Fire

ブライオニー荘の居間で、ソファに寝かされた牧師姿のホームズが身を起こし、空気を求める仕草をする。女中が窓を開け放つと、合図を受けたワトソンは発煙筒を投げ込んで「火事だ!」と叫ぶ。群衆の叫びと煙のなか、ホームズは誤報だと皆をなだめ、やがてワトソンと落ち合って静かな通りへ歩き出す。