Scene 58 · Notes

解説 場面 58「出迎えた老女」

この場面の解説

国王は身分違いを嘆いて黙り込み、馬車はブライオニー荘に着く。石段で待っていた年配の女はホームズの名を呼び、女主人は今朝、夫とともに列車で大陸へ発ったと告げる。

表現・文法のポイント

I wish she had been of my own station!
I wish+過去完了で「…だったらよかったのに」という過去の事実に反する願望。station はここでは「駅」ではなく「身分、地位」の意味で、be of 〜 station は「〜の身分である」。
What a queen she would have made!
make はここで「(素質があって)…になる」の意味。would have made は仮定法過去完了で、「身分さえ同じなら、どんなにすばらしい王妃になっていたことか」という嘆きである。
relapsed into a moody silence
relapse into は「(元の悪い状態に)また陥る」。moody は「ふさぎ込んだ」。一度は話に乗った国王が、ふたたび不機嫌な沈黙に沈んだ様子を表している。
Mr. Sherlock Holmes, I believe?
名前のあとに I believe? を添え、上がり調子で言うと「…様でいらっしゃいますね」と相手を確かめる丁寧な言い方になる。初対面のはずの相手が名前を知っている、という不気味さもある。

背景・時代

チャリング・クロス駅
ロンドン中心部の駅で、当時はここからドーバーなど南東部の港へ向かう列車が出ていた。そこから船で海峡を渡れば大陸である。5時15分の列車とは、夜明け前に発ったということだ。
名を呼ばれたホームズ
前日のホームズは牧師に変装して屋敷に入り込んでいた。それなのに女が本名で呼びかけ、しかも主人から来訪を聞いていたと言う。計画が見抜かれていたことをホームズが悟る瞬間である。

全文の対訳

"It is true. And yet—! Well! I wish she had been of my own station! What a queen she would have made!" He relapsed into a moody silence, which was not broken until we drew up in Serpentine Avenue.

「それはそうだ。だが――!まあよい!あの女が私と同じ身分であったなら!どれほど立派な王妃になったことか!」国王はふたたびふさぎ込んで黙り込み、その沈黙は馬車がサーペンタイン通りに着くまで破られなかった。

The door of Briony Lodge was open, and an elderly woman stood upon the steps. She watched us with a sardonic eye as we stepped from the brougham.

ブライオニー荘の扉は開いていて、年配の女が玄関の石段に立っていた。私たちが箱馬車から降りるのを、女は皮肉っぽい目つきで眺めていた。

"Mr. Sherlock Holmes, I believe?" said she.

「シャーロック・ホームズ様でいらっしゃいますね」と女は言った。

"I am Mr. Holmes," answered my companion, looking at her with a questioning and rather startled gaze.

「ホームズは私ですが」と、わが友は問いかけるような、いささか驚いた目で女を見ながら答えた。

"Indeed! My mistress told me that you were likely to call. She left this morning with her husband by the 5:15 train from Charing Cross for the Continent."

「やはりそうでしたか!奥様から、あなた様がおそらくお見えになるだろうと伺っておりました。奥様は今朝、ご主人とご一緒に、チャリング・クロス発五時十五分の列車で大陸へお発ちになりました」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • relapsed(リラプスト)… (元の状態に)逆戻りした・再発した難
  • sardonic(サードニック)… 皮肉っぽい・冷笑的な難
  • brougham(ブルーアム)… ブルーム型馬車(一頭または二頭立ての箱型四輪馬車)難
  • companion(カンパニオン)… 仲間・相棒
  • continent(コンティネント)… (the Continent で)ヨーロッパ大陸・大陸
  • startled(スタートゥルド)… 驚いた・びっくりした
  • mistress(ミストレス)… 愛人(女性)・女主人
  • silence(サイレンス)… 沈黙・静けさ

次の場面:空の巣 The Empty Nest

女主人は夫とともに今朝早く大陸へ発った――思いがけない知らせに、ホームズは顔色を失う。もう戻らないと聞いた国王は、すべておしまいだと嘆く。ホームズは召使いの女を押しのけて、荒らされた客間へ駆け込み、呼び鈴の引き紐の奥の隠し場所に手を差し入れる。そこには自分宛ての手紙が残されていた。