Scene 61 · Notes

解説 場面 61「手紙の結び」

この場面の解説

アイリーンはホームズを戸口までつけて正体を確かめ、夫と相談して逃げることにした。写真は身を守るためだけに持ち続けると約束し、代わりの写真を一枚残すと書いて手紙を結ぶ。

表現・文法のポイント

so formidable an antagonist
so+形容詞+a(n)+名詞 という語順に注意。such a formidable antagonist と同じ意味だが、より硬い書き言葉である。formidable は「手ごわい」、antagonist は「敵対者」。
the best resource was flight
resource はここでは「手段、打つ手」。flight は「飛行」ではなく flee(逃げる)の名詞で「逃走」の意味である。追われる身としては逃げるのが最善だった、と言っている。
I love and am loved by a better man than he.
love(能動)と am loved(受動)の二つの動詞が、目的語・動作主の a better man を共有している。「私が愛し、私を愛してくれる、あの人よりすぐれた男性」。than he は than him の改まった形。
née ADLER
née はフランス語由来で「旧姓…」を表し、結婚した女性の旧姓を示すのに使う。アイリーン・ノートンと新しい名で署名しつつ旧姓を添え、結婚したばかりの身であることを伝えている。

背景・時代

テンプル
the Temple はロンドンの法律家が集まる地区で、法曹院のインナー・テンプルとミドル・テンプルがある。弁護士であるノートンの事務所がここにあったので、アイリーンは夫に会いに向かったのである。
手紙の結び
I remain, dear Mr. Sherlock Holmes, Very truly yours は手紙を結ぶ改まった決まり文句で、日本語の「敬具」「かしこ」に当たる。本文中の to-morrow というハイフン付きの綴りも当時の書き方である。

全文の対訳

"Well, I followed you to your door, and so made sure that I was really an object of interest to the celebrated Mr. Sherlock Holmes. Then I, rather imprudently, wished you good-night, and started for the Temple to see my husband.

「そうして、あなたのあとをつけてお宅の戸口まで行き、私が本当にあの名高いシャーロック・ホームズさんの関心の的になっているのだと確かめました。それから、少々軽はずみにも、あなたにおやすみなさいと声をかけ、夫に会いにテンプルへ向かったのです。

"We both thought the best resource was flight, when pursued by so formidable an antagonist; so you will find the nest empty when you call to-morrow. As to the photograph, your client may rest in peace. I love and am loved by a better man than he. The King may do what he will without hindrance from one whom he has cruelly wronged. I keep it only to safeguard myself, and to preserve a weapon which will always secure me from any steps which he might take in the future. I leave a photograph which he might care to possess; and I remain, dear Mr. Sherlock Holmes,

「これほど手ごわい相手に追われては、逃げるのがいちばんだと私たちは二人とも考えました。ですから、明日あなたがいらしても、巣はもぬけの殻になっているはずです。写真のことでしたら、あなたの依頼人はどうぞご安心ください。私はあの方よりも立派な男性を愛し、その人に愛されています。国王は、ご自分がひどい仕打ちをした相手に邪魔されることなく、お好きなようになさればよいのです。写真を手元に置くのは、ただ自分の身を守るため、そして、この先あの方がどんな手を打ってきても私を守ってくれる武器をとっておくためにすぎません。あの方が持っていたいと思われるかもしれない写真を一枚残していきます。それでは、シャーロック・ホームズ様、

"Very truly yours,

「かしこ

"IRENE NORTON, née ADLER."

「アイリーン・ノートン(旧姓アドラー)」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • imprudently(インプルーデントリー)… 軽はずみにも・無分別に難
  • formidable(フォーミダブル)… 恐ろしい・手ごわい難
  • antagonist(アンタゴニスト)… 敵・相手・敵対者難
  • hindrance(ヒンドランス)… 邪魔・妨げ難
  • née(ネイ)… 旧姓は(結婚した女性の旧姓の前につける)難
  • celebrated(セレブレイティッド)… 名高い・有名な・祝った
  • safeguard(セイフガード)… 守る・保護する・安全装置
  • resource(リゾース)… 手段・方策・資源

次の場面:国王の賛嘆 What a Woman

手紙を読み終えた国王は、アイリーンの頭の回転の速さと決断力をほめたたえ、彼女が自分と同じ身分でなかったことを惜しむ。ホームズは、彼女はたしかに陛下とはまるで違う次元にいるようだと冷ややかに応じ、依頼をうまく片づけられなかったことをわびる。だが国王は、これ以上の成功はないと言い切る。