Scene 04 · Notes

解説 場面 4「ワトソンの観察」

この場面の解説

ウィルソン氏が新聞の広告欄を探すあいだ、ワトソンはホームズをまねて客を観察する。しかし分かったのは、身なりのぱっとしない、ありふれた太った商人だということくらいで、目立つのは燃えるような赤毛と不満げな表情だけだった。

表現・文法のポイント

with his head thrust forward and the paper flattened out upon his knee
付帯状況の with。with+名詞+過去分詞で「~が…された状態で」となる。thrust(突き出す)と flattened(平らにする)はどちらも過去分詞で、「頭を前に突き出し、新聞を膝の上に広げた格好で」という意味だ。
after the fashion of my companion
after the fashion of ~ は「~のやり方にならって、~流に」。fashion は「流行」ではなく「やり方、流儀」の意味。ホームズをまねて推理を試みる、ワトソンの少し得意げな心持ちが出ている。
look as I would
「どんなに見ても」。動詞+as+主語+would で譲歩を表す古風な言い方で、however hard I looked と同じ意味になる。Try as I might「どんなに頑張っても」も同じ型で、こちらは今も使われる。
save his blazing red head
save は前置詞で「~を除いて」(except と同じ)。nothing ... save ~ で「~以外には何も…ない」となる。blazing は「燃え立つような」で、赤い頭を炎にたとえ、髪の色の鮮やかさを強調している。

背景・時代

アルバート・チェーン(Albert chain)
チョッキのボタン穴から懐中時計につなぐ太い鎖。ヴィクトリア女王の夫アルバート公が愛用したことからこの名がついた。鎖の端には飾りを下げることも多く、ウィルソンの「穴のあいた四角い金属片」もその一つだ。
フロックコート(frock-coat)
ひざ丈の男性用の上着で、ヴィクトリア朝の紳士や商人が昼間に着る正装だった。それが清潔とは言いがたく、前もはだけているのは、身なりに気を配らない、ぱっとしない人物という印象を与える。

全文の対訳

The portly client puffed out his chest with an appearance of some little pride and pulled a dirty and wrinkled newspaper from the inside pocket of his greatcoat. As he glanced down the advertisement column, with his head thrust forward and the paper flattened out upon his knee, I took a good look at the man and endeavoured, after the fashion of my companion, to read the indications which might be presented by his dress or appearance.

恰幅のいい依頼人はいささか得意げに胸を張り、外套の内ポケットから、汚れてしわくちゃになった新聞を引っぱり出した。彼が首を前に突き出し、膝の上に新聞を広げて広告欄に目を走らせているあいだに、私はその男をじっくり眺め、友人のやり方にならって、服装や外見に表れている手がかりを読み取ろうとした。

I did not gain very much, however, by my inspection. Our visitor bore every mark of being an average commonplace British tradesman, obese, pompous, and slow. He wore rather baggy grey shepherd's check trousers, a not over-clean black frock-coat, unbuttoned in the front, and a drab waistcoat with a heavy brassy Albert chain, and a square pierced bit of metal dangling down as an ornament. A frayed top-hat and a faded brown overcoat with a wrinkled velvet collar lay upon a chair beside him. Altogether, look as I would, there was nothing remarkable about the man save his blazing red head, and the expression of extreme chagrin and discontent upon his features.

だが、観察してみても大した収穫はなかった。客はどこから見ても、太っていて、もったいぶっていて、鈍そうな、ありふれたイギリスの商人そのものだった。身につけているのは、だぶついた灰色の細かい格子縞のズボンに、前をはだけた、あまり清潔とはいえない黒のフロックコート、そしてくすんだ色のチョッキで、チョッキには真鍮めいた重いアルバート型の時計鎖と、飾りに下げた穴あきの四角い金属片がぶら下がっていた。すり切れたシルクハットと、しわの寄ったビロードの襟がついた色あせた茶色のオーバーが、彼のそばの椅子に置いてあった。結局、どれほど見ても、この男に目立つところといえば、燃えるような赤い頭と、顔に浮かんだひどく悔しげで不満そうな表情くらいのものだった。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • portly(ポートリー)… 恰幅のいい・太った難
  • greatcoat(グレイトコウト)… (厚手の)外套・オーバーコート難
  • thrust(スラスト)… 突き出した・押しやった(thrust の過去形・過去分詞)・突き出す難
  • endeavoured(インデヴァード)… 努めた・試みた(endeavour の過去形)難
  • commonplace(コモンプレイス)… ありふれた・平凡な難
  • tradesman(トレイズマン)… 商人・小売商・職人難
  • obese(オウビース)… 太りすぎの・肥満した難
  • pompous(ポンパス)… もったいぶった・尊大な難
  • over-clean(オウヴァークリーン)… (not over-clean で)あまりきれいでない・清潔すぎる難
  • frock-coat(フロックコウト)… フロックコート(ひざ丈の男性用上着)難
  • drab(ドラブ)… くすんだ茶色の・さえない・単調な難
  • brassy(ブラースィー)… 真鍮のような・安っぽく派手な難
  • albert(アルバート)… (Albert chain で)アルバート型の懐中時計の鎖・(人名)アルバート難
  • dangling(ダングリング)… ぶら下がっている(dangle の ing 形)難
  • frayed(フレイド)… すり切れた・ほつれた難
  • chagrin(シャグリン)… 悔しさ・無念難
  • discontent(ディスコンテント)… 不満難

次の場面:一目で見抜く Holmes Reads the Man

ワトソンの観察に気づいたホームズは、笑って首を振る。そして、この客について分かるのは、以前に力仕事をしていたこと、嗅ぎたばこをやること、フリーメイソンであること、中国にいたこと、最近たくさん書き物をしたことくらいだと言ってのける。ウィルソン氏は驚いて椅子から跳び上がる。