第 1 章(I)赤毛の依頼人The Red-Headed League

1890年の秋、ワトソンがベイカー街を訪ねると、ホームズは赤毛の年配の紳士と話しこんでいた。質屋を営むその男は、新聞の奇妙な広告を差し出す。赤毛の男だけを対象にした「赤毛組合」の募集だった。助手にすすめられて、男は応募することにする。

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  1. 01赤毛の依頼人 The Red-Haired Client去年の秋のある日、ワトソンがホームズのもとを訪ねると、燃えるような赤毛の太った年配の紳士が来ていた。遠慮して引き下がろうとするワトソンを、ホームズは部屋に引き入れる。依頼人はウィルソン氏。ホームズは、ワトソンこそ自分の相棒であり、この事件でもきっと役立つと紹介する。
  2. 02奇妙な事件好き A Taste for the Bizarreウィルソン氏を前に、ホームズはワトソンに長椅子をすすめ、指先を合わせて考える構えに入る。そしてワトソンに語りかける。きみも奇妙なことが好きだろう、だから私の事件を熱心に書き、少々脚色までしてきたのだ、と。さらに、人生は想像よりずっと大胆だという持論を持ち出すが、ワトソンはかつてそれを疑っていた。
  3. 03話をもう一度 Begin Again, Please人生は想像より大胆だという説を、ワトソンは疑っていた。ホームズは、いずれ事実の山で納得させてみせると言い、ウィルソン氏の話こそ近ごろまれに見る奇妙なものだと告げる。犯罪かどうかもまだ分からない。ワトソンのため、そして細部をすべて聞くため、ホームズはウィルソン氏に話を初めからやり直してほしいと頼む。
  4. 04ワトソンの観察 Watson Observesウィルソン氏は少し得意げに胸を張り、外套のポケットからしわくちゃの新聞を取り出す。彼が広告欄を探すあいだ、ワトソンはホームズにならって、服装や外見から何か読み取れないかと客を観察してみる。だが見えてくるのは、ありふれた太った商人の姿ばかり。目を引くのは燃えるような赤毛と、ひどく不満げな表情だけだ。
  5. 05一目で見抜く Holmes Reads the Manワトソンの観察に気づいたホームズは、笑って首を振る。そして、この客について分かるのは、以前に力仕事をしていたこと、嗅ぎたばこをやること、フリーメイソンであること、中国にいたこと、最近たくさん書き物をしたことくらいだと言ってのける。ウィルソン氏は驚いて椅子から跳び上がる。
  6. 06推理の種明かし The Clues Explainedどうして分かったのかと問うウィルソン氏に、ホームズは種明かしをする。力仕事は大きな右手から、フリーメイソンは胸元のピンから、書き物は袖口の光り方とひじの擦れから読み取ったのだ。言われてみれば当たり前のことばかりで、ウィルソン氏も、なるほどそうだったと納得する。
  7. 07魚の入れ墨 The Fish Tattooホームズは、最後に残った中国の謎も解いてみせる。手首の魚の入れ墨は、うろこを淡い桃色に染める中国独特の技法で彫られたもので、時計の鎖には中国の硬貨まで下がっている。入れ墨の研究までしているというホームズの説明を聞き終えると、ウィルソン氏は大笑いする。種を明かされれば何でもない、というわけだ。
  8. 08例の広告 The Advertisement種を明かすと、ウィルソン氏はとたんに感心しなくなった。ホームズはワトソンに、説明しすぎると自分のささやかな評判が台なしになると冗談まじりにぼやく。そして例の広告はまだかとウィルソン氏を促す。太い指で新聞の欄を押さえたウィルソン氏は、すべてはこれから始まったと言う。
  9. 09赤毛組合の募集 The League's Noticeワトソンはウィルソン氏から新聞を受け取り、広告を読む。赤毛の男子に限り、まったく名目だけの仕事で週四ポンドの給料が出るという、なんとも奇妙な募集だ。わけが分からず声を上げるワトソンをよそに、ホームズは上機嫌で椅子の上で身をよじり、ウィルソン氏に身の上話を初めから聞かせてほしいと頼む。
  10. 10質屋の主人 The Pawnbrokerワトソンは新聞の名前と日付を書き留める。一八九〇年四月二十七日付のモーニング・クロニクル紙、ちょうど二か月前のものだ。いよいよウィルソン氏が身の上を語り出す。シティの近くで小さな質屋を営んでいるが、商売はやっと食べていける程度で、今は店の仕事を覚えたいという助手を一人、半分の給金で雇っているだけだという。
  11. 11安い給料の助手 A Cheap Assistant小さな質屋を営むウィルソンには、半分の給料で働いてくれる助手がいる。ホームズがその奇特な若者の名を尋ねると、ウィルソンはヴィンセント・スポールディングだと答え、若者というほど若くもないと言い添える。よそならもっと稼げるはずの男なのに、なぜ安い給料に甘んじているのか。ホームズはその点に興味を示す。
  12. 12写真好きの癖 A Fondness for Photographyホームズに助手の珍しさを指摘されたウィルソンは、いや、あの男にも欠点はあると答える。暇さえあればカメラを手に写真を撮り、撮ったそばから地下室へもぐり込んで現像に没頭するのだという。それでも全体としてはよく働き、悪い遊びもしない男らしい。ホームズは、その助手が今も店にいるのかを確かめる。
  13. 13赤毛だったらなあ If Only I Were Red助手は今も店にいるとウィルソンは答える。家にいるのは助手と、料理と掃除をする十四歳の娘だけで、男やもめの彼は三人で静かに暮らしてきた。その暮らしを最初にかき乱したのが、例の広告だった。八週間前、助手のスポールディングが新聞を手に、自分が赤毛だったらと嘆いたのが始まりである。
  14. 14組合の空席 A Vacancy in the League赤毛だったらなあと嘆くスポールディングに、ウィルソンはわけを尋ねる。助手によれば、赤毛組合という団体にまた空きが出たのだという。空きの数が希望者より多く、管財人たちは金の使い道に困っているらしい。出不精で世間の噂にうといウィルソンは、この思わぬ話に耳を傾ける。
  15. 15年に二百ポンド Two Hundred a Year赤毛組合を知らないと聞いて、スポールディングは目を丸くする。ウィルソン自身にも応募の資格があるというのだ。報酬は年に二百ポンドほどで、仕事は軽く、本業の邪魔にもならないらしい。ここ数年、商売が振るわなかったウィルソンは思わず耳をそばだて、詳しく話してくれと頼む。
  16. 16富豪の遺言 The Millionaire's Willスポールディングは広告を見せながら、赤毛組合のいわれを語る。組合を作ったのは、自身も赤毛だったアメリカの百万長者だという。彼は莫大な遺産を管財人に託し、その利息で赤毛の男たちに楽な勤め口を与えるよう言い残した。だがそれでは応募者が殺到するはずだと、ウィルソンは首をかしげる。
  17. 17燃える赤毛だけ Only Fiery Red応募者が殺到するのではというウィルソンの心配を、スポールディングは打ち消す。対象はロンドンに住む大人の男に限られ、しかも本物の燃えるような赤毛でなければだめなのだという。自分の髪の色なら誰にも負けないと考えたウィルソンは、店を閉めさせ、助手を連れて広告の宛先へ向かう。