Scene 10 · Notes

解説 場面 10「質屋の主人」

この場面の解説

ワトソンは、広告がモーニング・クロニクル紙の一八九〇年四月二十七日付、ちょうど二か月前のものだと書き留める。ウィルソン氏は、シティ近くのコバーグ・スクエアで小さな質屋を営んでいること、今は商売を覚えたいという助手を半分の給金で一人雇っているだけだということを語り始める。

表現・文法のポイント

of late years
「ここ数年」。of late は「最近」(lately と同じ)で、years がついて「近年」の意味になる。やや古風で改まった言い方だが、商売の不振を嘆くウィルソンの口ぶりにはよく合っている。
give me a living
living は「生計、暮らし」。make a living「生計を立てる」でおなじみの語で、give me a living は「(店が)私を食べさせてくれる」となる。not more than just と合わせて、「どうにか食べていける程度で、それ以上の儲けはない」という嘆きだ。
I would have a job to pay him
have a job to ~ は「~するのにひと苦労する」というイギリスの口語。job は「仕事」ではなく「骨の折れること」の意味だ。would は仮定を表し、「(普通の給料なら)払うのに苦労するだろう」となる。
but that he is willing to come for half wages
but that ~ は「~でなければ」(if it were not that ~)という古い言い方。「彼が給金半分で来てくれるのでなければ」という意味で、前の would と組んで仮定の文を作っている。so as to ~ は「~するために」。

背景・時代

質屋(pawnbroker)
品物を預かってお金を貸す商売で、ヴィクトリア朝のロンドンでは、労働者が給料日前に晴れ着や道具を質に入れるなど、暮らしに欠かせない存在だった。店の目印は、軒先に下げた三つの金の玉だった。
シティ(the City)
ロンドン発祥の地にあたる古い市街地で、正式にはシティ・オブ・ロンドン。ローマ時代の城壁の内側にあたり、19世紀には商業と金融の中心地としてにぎわっていた。

全文の対訳

"It is The Morning Chronicle of April 27, 1890. Just two months ago."

「一八九〇年四月二十七日付のモーニング・クロニクル紙だね。ちょうど二か月前だ」

"Very good. Now, Mr. Wilson?"

「よろしい。では、ウィルソンさん?」

"Well, it is just as I have been telling you, Mr. Sherlock Holmes," said Jabez Wilson, mopping his forehead; "I have a small pawnbroker's business at Coburg Square, near the City. It's not a very large affair, and of late years it has not done more than just give me a living. I used to be able to keep two assistants, but now I only keep one; and I would have a job to pay him but that he is willing to come for half wages so as to learn the business."

「ええ、さっきからお話ししているとおりでしてね、シャーロック・ホームズさん」とジェイベズ・ウィルソンは額の汗をぬぐいながら言った。「私はシティの近くのコバーグ・スクエアで、小さな質屋を営んでおりまして。たいした店じゃありませんし、ここ数年は、どうにか食べていけるくらいの稼ぎしかありません。以前は店員を二人置いておけたんですが、今は一人だけでして。それも、商売を覚えたいからと給金半分で来てくれるからいいようなもので、そうでなけりゃ給金を払うのにひと苦労ですよ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • pawnbroker's(ポーンブロウカーズ)… 質屋の(pawnbroker の所有格)・質屋の店難
  • assistants(アシスタンツ)… 店員・助手(assistant の複数形)
  • chronicle(クロニクル)… 記録する・年代記に書く・年代記
  • forehead(フォーリッド)… 額・おでこ
  • mopping(モッピング)… (汗などを)ぬぐうこと・モップでふくこと(mop の ing 形)
  • willing(ウィリング)… 進んで〜する・いとわない
  • affair(アフェア)… 店・事業・事柄・出来事
  • wages(ウェイジズ)… 給金・賃金(wage の複数形)

次の場面:安い給料の助手 A Cheap Assistant

小さな質屋を営むウィルソンには、半分の給料で働いてくれる助手がいる。ホームズがその奇特な若者の名を尋ねると、ウィルソンはヴィンセント・スポールディングだと答え、若者というほど若くもないと言い添える。よそならもっと稼げるはずの男なのに、なぜ安い給料に甘んじているのか。ホームズはその点に興味を示す。