Scene 13 · Notes

解説 場面 13「赤毛だったらなあ」

この場面の解説

ウィルソンは、助手と十四歳の娘の三人で静かに暮らしていると話す。その暮らしを変えたのは例の広告で、八週間前、スポールディングが新聞を手に「赤毛だったらなあ」と言い出したのが始まりだった。

表現・文法のポイント

if we do nothing more
直訳は「それ以上のことは何もしないとしても」。keep a roof over our heads(住む家を保つ)と pay our debts(借金を払う)を受けて、「ほかに何もできなくても、せめてそれだけはできている」と控えめに言う表現だ。
this day eight weeks
「八週間前の今日」。this day +期間 は古風な言い方で、「ちょうど~前(または後)の今日」を表す。this day week なら「先週の今日」または「来週の今日」で、どちらかは文脈で決まる。
I wish to the Lord
the Lord は「神、主」。I wish to the Lord that ~ で「ああ神様、~だったらいいのに」と強く願う口語。後ろの that I was ... は仮定法で、正式には I were だが、くだけた話し言葉では was も使われる。
I asks
正しくは I ask(ed)。過去の出来事を現在形で語って生き生きさせる「歴史的現在」に、三単現の s までついてしまった形で、ウィルソンの庶民的な話しぶりをそのまま写している。前の he says も同じ語り口だ。

背景・時代

住み込みの少女(a girl of fourteen)
ヴィクトリア朝では、十二〜十四歳ほどの少女が住み込みで料理や掃除をする「何でも屋の女中」として働くことが多かった。小さな商店でも、こうした少女を一人置くのは珍しくなかった。

全文の対訳

"Yes, sir. He and a girl of fourteen, who does a bit of simple cooking and keeps the place clean—that's all I have in the house, for I am a widower and never had any family. We live very quietly, sir, the three of us; and we keep a roof over our heads and pay our debts, if we do nothing more.

「ええ、おります。あの男と、簡単な料理と掃除をしてくれる十四の娘と、家にいるのはそれだけでして、なにしろ私は男やもめで、家族を持ったこともないんです。三人でごく静かに暮らしておりまして、ほかに何ができるわけでもありませんが、雨露をしのいで借金を払うくらいはできております。

"The first thing that put us out was that advertisement. Spaulding, he came down into the office just this day eight weeks, with this very paper in his hand, and he says:

「そんな暮らしを最初にかき乱したのが、例の広告でした。スポールディングのやつが、ちょうど八週間前の今日、まさにこの新聞を手にして店へ下りてきましてね、こう言うんです。

"'I wish to the Lord, Mr. Wilson, that I was a red-headed man.'

「『ああウィルソンさん、自分が赤毛の男だったら、どんなにいいか』

"'Why that?' I asks.

「『そりゃまた、どうして?』と私は聞きます。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • advertisement(アドヴァーティスメント)… 広告
  • red-headed(レッドヘディッド)… 赤毛の
  • widower(ウィドウアー)… 男やもめ(妻を亡くした男)
  • debts(デッツ)… 借金・負債(debt の複数形)
  • lord(ロード)… (the Lord で)神・主・君主・貴族

次の場面:組合の空席 A Vacancy in the League

赤毛だったらなあと嘆くスポールディングに、ウィルソンはわけを尋ねる。助手によれば、赤毛組合という団体にまた空きが出たのだという。空きの数が希望者より多く、管財人たちは金の使い道に困っているらしい。出不精で世間の噂にうといウィルソンは、この思わぬ話に耳を傾ける。