Scene 18 · Notes

解説 場面 18「赤毛の大行列」

この場面の解説

広告の宛先には四方八方から赤毛の男たちが押し寄せ、フリート街は人で埋まっていた。あきらめかけたウィルソンを、スポールディングが人ごみをかき分けて事務所まで連れていく。ホームズは、嗅ぎたばこで一息つく依頼人に話の続きを促す。

表現・文法のポイント

I never hope to see such a sight as that again
直訳は「あんな光景をもう一度見ることは決して望めない」。never hope to ~ は「~することはまずないだろう」で、それほど珍しい光景だったという気持ちを表す。such ~ as that は「あのような~」。
looked like a coster's orange barrow
coster は costermonger の略で、手押し車で果物や野菜を売り歩く行商人。オレンジを山積みにした手押し車のように、赤い頭がびっしり並んでいた、というユーモラスなたとえだ。
would not hear of it
won't hear of ~ は「~を聞き入れない、承知しない」。ウィルソンがあきらめようとしても、スポールディングが承知しなかった、ということ。助手の妙な熱心さが伝わる一言でもある。
found ourselves in the office
find oneself ~ は「(気がつくと)~にいる」。人ごみにもまれているうちに、いつの間にか事務所に入っていた、という感じが出る。soon(まもなく)と合わせて、あっけなさも伝わる。

背景・時代

嗅ぎたばこ(snuff)
粉にしたたばこを指でつまみ、鼻から吸い込むもの。18世紀に大流行し、19世紀末には年配の男性の習慣として残っていた。ウィルソンの少し古風な人柄を感じさせる小道具だ。
行商人(coster)
ロンドンの街には、手押し車で果物や野菜、魚を売り歩く「コスターモンガー」が大勢いた。威勢のいい売り声や独特の言葉づかいで知られ、下町の名物だった。

全文の対訳

"I never hope to see such a sight as that again, Mr. Holmes. From north, south, east, and west every man who had a shade of red in his hair had tramped into the city to answer the advertisement. Fleet Street was choked with red-headed folk, and Pope's Court looked like a coster's orange barrow. I should not have thought there were so many in the whole country as were brought together by that single advertisement. Every shade of colour they were—straw, lemon, orange, brick, Irish-setter, liver, clay; but, as Spaulding said, there were not many who had the real vivid flame-coloured tint. When I saw how many were waiting, I would have given it up in despair; but Spaulding would not hear of it. How he did it I could not imagine, but he pushed and pulled and butted until he got me through the crowd, and right up to the steps which led to the office. There was a double stream upon the stair, some going up in hope, and some coming back dejected; but we wedged in as well as we could and soon found ourselves in the office."

「あんな光景は、もう二度と見られないでしょうね、ホームズさん。北から、南から、東から、西から、髪にちょっとでも赤みのある男という男が、あの広告に応えようと、町の中心まで歩いて押し寄せてきたんです。フリート街は赤毛の連中でぎっしり埋まり、ポープス・コートはまるで、オレンジを山積みにした行商人の手押し車みたいでした。あのたった一つの広告で集まった数ほど、国じゅうに赤毛がいるとは思ってもみませんでした。色合いもさまざまで、麦わら色、レモン色、オレンジ色、れんが色、アイリッシュ・セッター色、レバー色、粘土色とありましたが、スポールディングの言ったとおり、本物の鮮やかな炎の色をした者はそう多くありませんでした。待っている人の多さを見て、私はがっかりしてあきらめかけましたが、スポールディングが承知しませんでした。どうやったのか見当もつきませんが、あいつは押したり引いたり頭で突いたりして私を人ごみの中に通し、事務所へ上がる階段の前まで連れていってくれたんです。階段には上りと下りの二筋の流れができていて、望みを抱いて上がっていく者もいれば、しょんぼりして下りてくる者もいましたが、私たちはなんとか割り込んで、まもなく事務所の中に入っていました」

"Your experience has been a most entertaining one," remarked Holmes as his client paused and refreshed his memory with a huge pinch of snuff. "Pray continue your very interesting statement."

「なんとも愉快なご経験だ」と、依頼人が話を止めて嗅ぎたばこをたっぷりひとつまみ吸い、記憶を呼び覚ますのを見て、ホームズが言った。「どうぞ、そのたいへん興味深いお話の続きを」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • tramped(トランプト)… てくてく歩いた・重い足取りで歩いた(tramp の過去形)難
  • coster's(コスターズ)… 行商人の(coster=costermonger。手押し車で果物などを売り歩く人)難
  • barrow(バロウ)… 手押し車・屋台車難
  • irish-setter(アイリッシュセッター)… アイリッシュ・セッター(赤褐色のつやのある毛をした猟犬)の色難
  • butted(バティッド)… 頭で押した・頭突きした(butt の過去形)難
  • dejected(ディジェクティッド)… しょんぼりした・落胆した難
  • wedged(ウェッジド)… 割り込んだ・押し込んだ(wedge の過去形)難
  • snuff(スナフ)… 嗅ぎたばこ難

次の場面:面接の小男 The Little Manager

人ごみを抜けて事務所に入ると、そこには椅子が二脚とテーブルがあるだけだった。座っているのは、ウィルソンよりさらに赤い髪の小柄な男だ。男は応募者を次々に不合格にしていくが、ウィルソンの番になるとドアを閉め、彼の髪をしげしげと眺める。そして飛びつくように手を握り、合格を祝う。