Scene 26 · Notes

解説 場面 26「疑いと初出勤」

この場面の解説

ウィルソンは一日考えるうちに、これは悪ふざけか詐欺だと思い込み、寝るころにはすっかりやめる気になる。それでも翌朝、とにかく様子を見ようと、インクと羽根ペンと紙を買ってポープス・コートへ出かける。

表現・文法のポイント

I was in low spirits again
in low spirits は「元気がなくて、ふさぎこんで」。spirits と複数形にすると「気分、元気」の意味になる。反対は in high spirits(上機嫌で)。again は、広告を見る前の沈んだ気分にまた戻ってしまったことを表す。
though what its object might be I could not imagine
本来は I could not imagine what its object might be の語順で、目的語の what 節が前に出ている。「その目的が何なのかは想像もつかなかったけれども」。object はここでは「物体」ではなく「目的、ねらい」の意味。
It seemed altogether past belief
past belief は「信じられる範囲を過ぎて」、つまり「とても信じられない」。past は「~を過ぎて」の前置詞で、past hope(望みがない)などとも言う。altogether は「まったく」で、意味を強めている。
I had reasoned myself out of the whole thing
reason oneself out of ~ は「あれこれ考えた末に~をやめることにする」。talk someone out of ~(説得して~をやめさせる)と同じ形で、理屈で自分自身を説き伏せたということ。過去完了で、寝るころにはもうそうなっていたことを表す。

背景・時代

フールスキャップ紙(foolscap)
およそ33×20cmの大判の筆記用紙で、事務や清書に広く使われた。昔、道化師の帽子(fool's cap)の形の透かしが入っていたことから、この名がついたといわれる。
ペニー(penny)
英国の小額の銅貨で、当時は1ポンドが240ペンスだった。a penny bottle of ink は「1ペニーで買えるインク一瓶」で、ごく安い品であることを表している。

全文の対訳

"Well, I thought over the matter all day, and by evening I was in low spirits again; for I had quite persuaded myself that the whole affair must be some great hoax or fraud, though what its object might be I could not imagine. It seemed altogether past belief that anyone could make such a will, or that they would pay such a sum for doing anything so simple as copying out the Encyclopædia Britannica. Vincent Spaulding did what he could to cheer me up, but by bedtime I had reasoned myself out of the whole thing. However, in the morning I determined to have a look at it anyhow, so I bought a penny bottle of ink, and with a quill-pen, and seven sheets of foolscap paper, I started off for Pope's Court.

「それで、一日じゅうその件を考えていたのですが、夕方にはまた気がふさいでしまいましてね。何が目的かは見当もつかないものの、これはきっと大がかりな悪ふざけか詐欺にちがいないと、すっかり思い込んでしまったものですから。そんな遺言をする人がいるとも、ブリタニカ百科事典を書き写すなどという単純なことにあれほどの金を払うとも、まったく信じられない気がしたのです。ヴィンセント・スポールディングはできるかぎり私を励ましてくれましたが、寝るころには、あれこれ考えた末にすっかりやめる気になっていました。それでも朝になると、とにかく一度のぞいてみようと決めまして、一ペニーのインクを一瓶買い、羽根ペン一本とフールスキャップ紙を七枚持って、ポープス・コートへ出かけたのです。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • hoax(ホウクス)… 悪ふざけ・いたずら・でっちあげ難
  • quill-pen(クウィルペン)… 羽根ペン(鳥の羽で作ったペン)難
  • foolscap(フールスキャップ)… フールスキャップ紙(大判の筆記用紙)難
  • encyclopædia(エンサイクロピーディア)… 百科事典(æ は a と e をつなげた古い文字。今はふつう encyclopedia・encyclopaedia と書く)
  • altogether(オールトゥゲザー)… 全体として・結局・まったく
  • determined(ディターミンド)… 決心している・断固とした
  • persuaded(パースウェイデッド)… (自分に)思い込ませた・説得した(persuade の過去分詞)
  • reasoned(リーズンド)… 筋道立てて考えた・推理した(reason の過去形・過去分詞。reason oneself out of で「考えた末に〜をやめる」)

次の場面:写し続ける日々 Weeks of Copying

驚いたことに、事務所ではすべてが約束どおりに整っている。ウィルソンはAの項から書き写しはじめ、二時になるとロスがその仕事ぶりをほめて送り出す。土曜日には一週間分としてソヴリン金貨四枚が支払われる。やがてロスはほとんど姿を見せなくなるが、ウィルソンは決して部屋を離れない。