Scene 27 · Notes

解説 場面 27「写し続ける日々」

この場面の解説

事務所は約束どおりに整っていて、ウィルソンは A の項から書き写しはじめる。毎週土曜にソヴリン金貨四枚が支払われ、ロスはしだいに顔を見せなくなるが、ウィルソンは職を失うのを恐れて部屋を一歩も出なかった。

表現・文法のポイント

to my surprise and delight
to one's surprise は「驚いたことに」。delight(大喜び)を並べて「驚いたことに、そしてうれしいことに」となる。to one's +感情の名詞で、ある出来事がその人にどんな気持ちを起こさせたかを表す。
he would drop in from time to time
drop in は「ちょっと立ち寄る」、from time to time は「ときどき」。would はここでは過去の習慣を表し、「よく~したものだった」。最初のうちはロスがこまめに様子を見に来ていたことがわかる。
planked down four golden sovereigns
plank down は「(お金を)どんと置く、ぽんと払う」というくだけた言い方。sovereign は1ポンドの金貨なので、約束の週4ポンドが金貨で支払われたことになる。golden がつき、金貨のまぶしさが伝わる。
By degrees Mr. Duncan Ross took to coming in only once of a morning
by degrees は「しだいに、だんだんと」。take to ~ing は「~するようになる、~する習慣がつく」。of a morning は「午前中に」という古風な言い方で、毎日の習慣であることを表す。

背景・時代

ソヴリン金貨(sovereign)
1ポンドの価値をもつ英国の金貨。当時は紙幣より金貨が日常の支払いに使われることが多く、週給を金貨で受け取るのはごく普通のことだった。4枚で、熟練工の週給のおよそ倍にあたった。

全文の対訳

"Well, to my surprise and delight, everything was as right as possible. The table was set out ready for me, and Mr. Duncan Ross was there to see that I got fairly to work. He started me off upon the letter A, and then he left me; but he would drop in from time to time to see that all was right with me. At two o'clock he bade me good-day, complimented me upon the amount that I had written, and locked the door of the office after me.

「ところが驚いたことに、そしてうれしいことに、何もかもがこれ以上ないほどきちんとしていたんです。机は私のためにちゃんと用意されていて、ダンカン・ロスさんが、私がきちんと仕事に取りかかるのを見届けに来ていました。彼は私に A の項から始めさせると出ていきましたが、ときどき顔を出しては、ちゃんとやっているか確かめていきました。二時になると、彼は私にあいさつをして、書いた量をほめてくれ、私が出たあと事務所のドアに鍵をかけました。

"This went on day after day, Mr. Holmes, and on Saturday the manager came in and planked down four golden sovereigns for my week's work. It was the same next week, and the same the week after. Every morning I was there at ten, and every afternoon I left at two. By degrees Mr. Duncan Ross took to coming in only once of a morning, and then, after a time, he did not come in at all. Still, of course, I never dared to leave the room for an instant, for I was not sure when he might come, and the billet was such a good one, and suited me so well, that I would not risk the loss of it.

「こんな毎日が続きましてね、ホームズさん、土曜日には支配人がやって来て、一週間の仕事の代金としてソヴリン金貨を四枚、ぽんと置いていったんです。次の週も同じ、その次の週も同じでした。毎朝十時にはそこにいて、毎日午後二時に帰りました。そのうちダンカン・ロスさんは午前中に一度しか来なくなり、やがてしばらくすると、まったく来なくなりました。それでももちろん、私はかたときも部屋を離れる気にはなれませんでした。いつ彼が来るかわかりませんでしたし、こんなにいい、私にぴったりの勤め口を、失うような危ないまねはしたくなかったものですから。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • bade(ベイド)… (あいさつを)告げた(bid の過去形・古風)難
  • good-day(グッドデイ)… さようなら・こんにちは(古風なあいさつ)難
  • planked(プランクト)… (お金を)ぽんと置いた・払った(plank down の過去形・口語)難
  • sovereigns(ソヴリンズ)… ソヴリン金貨(1ポンド)(sovereign の複数形)・君主難
  • billet(ビレット)… 勤め口・職(古風)・(兵士の)宿舎難
  • complimented(コンプリメンティッド)… ほめた(compliment の過去形)
  • delight(ディライト)… 大喜び・うれしさ
  • degrees(ディグリーズ)… 段階・程度・度(degree の複数形)。by degrees で「しだいに」

次の場面:突然の終わり A Sudden End

こうして八週間が過ぎ、ウィルソンはAで始まる項目を次々と写して、まもなくBへ進めそうなところまで来ている。書きためた紙は棚ひとつを埋めるほどだ。ところがこの日の朝、いつものように十時に行くと、ドアには鍵がかかり、小さな四角い厚紙が鋲で留めてあった。