Scene 31 · Notes

解説 場面 31「うその住所」

この場面の解説

大家によると、四号室の赤毛の男はウィリアム・モリスという事務弁護士で、新しい事務所ができるまで部屋を借りていただけだった。教えられたキング・エドワード街の住所は人工ひざ皿の製造所で、モリスのこともロスのことも誰も知らなかった。

表現・文法のポイント

as a temporary convenience
temporary は「一時的な」、convenience は「便宜、都合のよいもの」。as a temporary convenience で「一時しのぎとして、仮の場所として」。続く premises は「(建物を含む)敷地、店舗、事務所」で、この意味では常に複数形で使う。
He did tell me the address.
did +動詞の原形で、動詞を強める言い方。「住所はたしかに聞いていますよ」と、思い出しながら念を押す口調になる。このあと Yes, で始めて、思い出した住所を口にしている。
no one in it had ever heard of either Mr. William Morris or Mr. Duncan Ross
no one ... either A or B で「AもBも誰ひとり~ない」。過去完了 had ever heard は「その時までに一度も聞いたことがなかった」。二つの名前がどちらも空振りに終わったことを強調している。

背景・時代

事務弁護士(solicitor)
イギリスの弁護士は、依頼人の相談や契約書づくりを受け持つ solicitor と、法廷で弁論する barrister に分かれていた。ソリシターは町なかに事務所を構えるのが普通で、大家には堅い職業の借り手に見えただろう。
セント・ポール大聖堂(St. Paul's)
シティにそびえる、ロンドンを代表する大聖堂。1666年のロンドン大火のあと、建築家クリストファー・レンが再建した。St. Paul's とだけ言えばこの大聖堂を指し、近くの通りの目印によく使われた。

全文の対訳

"'Oh,' said he, 'his name was William Morris. He was a solicitor and was using my room as a temporary convenience until his new premises were ready. He moved out yesterday.'

「『ああ』と大家は言いました。『その人ならウィリアム・モリスという名前ですよ。事務弁護士でしてね、新しい事務所の用意ができるまで、仮の場所として私の部屋を使っていたんです。昨日、引っ越していきましたよ』

"'Where could I find him?'

「『どこへ行けば会えるでしょう?』

"'Oh, at his new offices. He did tell me the address. Yes, 17 King Edward Street, near St. Paul's.'

「『ああ、新しい事務所ですよ。住所はたしかに聞いています。そうそう、キング・エドワード街十七番地、セント・ポール大聖堂の近くです』

"I started off, Mr. Holmes, but when I got to that address it was a manufactory of artificial knee-caps, and no one in it had ever heard of either Mr. William Morris or Mr. Duncan Ross."

「すぐに出かけたんですがね、ホームズさん、その住所に着いてみると、そこは人工のひざ皿を作る製造所でして、ウィリアム・モリス氏のこともダンカン・ロス氏のことも、誰ひとり聞いたことがないと言うんです」

"And what did you do then?" asked Holmes.

「それで、あなたはどうしたのかね?」とホームズは尋ねた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • premises(プレミスィズ)… (建物と敷地をまとめて)店舗・構内・敷地難
  • manufactory(マニュファクトリー)… 製造所・工場(factory の古い言い方)難
  • convenience(コンヴィーニエンス)… 便宜・都合のよいもの・便利さ
  • artificial(アーティフィシャル)… 人工の・作り物の・不自然な
  • solicitor(ソリスィター)… 事務弁護士(イギリスで相談や書類作成を受け持つ弁護士)・勧誘員
  • temporary(テンポラリー)… 一時的な・仮の
  • knee-caps(ニーキャップス)… ひざの皿・膝蓋骨(knee-cap の複数形)・ひざ当て

次の場面:相談に来た理由 Why He Came

教えられた住所は人工ひざ皿の製造所で、モリスもロスも誰も知らなかった。行き詰まったウィルソンは家に戻って助手に相談するが、助手は郵便で知らせが来るのを待つしかないと言うだけだ。それでは納得できない彼は、ホームズのもとを訪れた理由を語り終える。