Scene 50 · Notes

解説 場面 50「ジョン・クレイ」

この場面の解説

ホームズは、今夜の勝負の賭け金はメリーウェザーにとって三万ポンド、ジョーンズにとっては追い続けてきた男だと言う。ジョーンズは、王族の血を引き、イートンとオックスフォードを出た若き大悪党ジョン・クレイのことを語る。ホームズも彼とは手合わせをしたことがあると言い、一同は二台の辻馬車で出発することにする。

表現・文法のポイント

you will play for a higher stake
play for a stake は「何かを賭けて勝負する」、stake は「賭け金」。カード遊びを惜しむメリーウェザーの言葉を受けて、「今夜はもっと大きなものを賭けた勝負になる」と、ホームズがしゃれた返しをしている。
I would rather have my bracelets on him than on any criminal in London
would rather A than B は「B より A がいい」。bracelets は「腕輪」だが、警察の俗語で「手錠」のこと。「ロンドンのどんな悪党よりも、あいつにこそ手錠をかけたい」という意味になる。
He's a remarkable man, is young John Clay
先に He で言っておき、文の終わりで is young John Clay と主語を言い直す口語の形。「大したやつですよ、あの若造ジョン・クレイってのは」と、話し手の感情がこもった強調になる。
He'll crack a crib
crack a crib は泥棒仲間の俗語で「家に押し入る」。crack は「(金庫や戸を)破る」、crib は「家、住みか」。ジョーンズのくだけた話しぶりと、続く孤児院の資金集めという上品な顔との落差が面白い。

背景・時代

三万ポンド(£30,000)
当時のロンドンでは、腕のいい職人の稼ぎが週に二ポンドほどだった。三万ポンドは、そうした職人が三百年近く働き続けてようやく手にできる、途方もない大金だった。
イートンとオックスフォード(Eton and Oxford)
イートン校は上流階級の子弟が通う名門の寄宿学校、オックスフォードはイギリス最古の大学。この二つを出ていることは、生まれも育ちも申し分ない紳士であることの証だった。

全文の対訳

"I think you will find," said Sherlock Holmes, "that you will play for a higher stake to-night than you have ever done yet, and that the play will be more exciting. For you, Mr. Merryweather, the stake will be some £ 30,000; and for you, Jones, it will be the man upon whom you wish to lay your hands."

「きっとお分かりになりますよ」とシャーロック・ホームズは言った。「今夜は、これまでで一番大きなものを賭けた勝負になり、しかもずっとはらはらする勝負になるとね。メリーウェザーさん、あなたにとっての賭け金はおよそ三万ポンド。そしてジョーンズ君、きみにとっては、きみがずっと捕まえたがっている男だ」

"John Clay, the murderer, thief, smasher, and forger. He's a young man, Mr. Merryweather, but he is at the head of his profession, and I would rather have my bracelets on him than on any criminal in London. He's a remarkable man, is young John Clay. His grandfather was a royal duke, and he himself has been to Eton and Oxford. His brain is as cunning as his fingers, and though we meet signs of him at every turn, we never know where to find the man himself. He'll crack a crib in Scotland one week, and be raising money to build an orphanage in Cornwall the next. I've been on his track for years and have never set eyes on him yet."

「ジョン・クレイですな。人殺しで、泥棒で、にせ金使いで、偽造犯という。まだ若い男ですがね、メリーウェザーさん、その道では第一人者で、ロンドンのどんな悪党よりも、あいつにこそ手錠をかけてやりたいんですよ。大したやつですよ、あの若造のジョン・クレイってのは。祖父は王族の公爵で、本人もイートン校とオックスフォードを出ているんです。頭のほうも手先に劣らず悪賢くて、行く先々でやつの形跡には出くわすのに、本人がどこにいるのかはさっぱりつかめません。ある週にスコットランドで押し込みを働いたかと思えば、次の週にはコーンウォールで孤児院を建てる金集めをしている、といった具合でしてな。私は何年もやつを追っていますが、まだ一度も顔を拝んだことがないんですよ」

"I hope that I may have the pleasure of introducing you to-night. I've had one or two little turns also with Mr. John Clay, and I agree with you that he is at the head of his profession. It is past ten, however, and quite time that we started. If you two will take the first hansom, Watson and I will follow in the second."

「今夜は、きみにその本人を引き合わせることができるといいがね。私もジョン・クレイ氏とは一、二度ちょっとした手合わせをしたことがあってね、あの男がその道の第一人者だというのは同感だ。だが、もう十時を回ったから、そろそろ出かけるとしよう。お二人には先の辻馬車に乗っていただこう、ワトソンと私は二台目で後から続く」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • smasher(スマッシャー)… にせ金使い(古い俗語)・壊す人難
  • forger(フォージャー)… 偽造犯難
  • crib(クリブ)… (当時の俗語)楽な勤め口・(crack a crib で)家に押し入る・ベビーベッド難
  • orphanage(オーファニッジ)… 孤児院難
  • hansom(ハンサム)… ハンサム馬車(一頭立て二輪の辻馬車)難
  • profession(プロフェッション)… (専門的な)職業・同業者たち
  • remarkable(リマーカブル)… 注目すべき・著しい
  • bracelets(ブレイスレッツ)… 手錠(俗語)・腕輪(bracelet の複数形)

次の場面:夜の馬車 The Night Drive

夜十時過ぎ、二台の辻馬車がベイカー街を出る。前の馬車にはジョーンズ警部と銀行の重役メリーウェザー、後ろの馬車にはホームズとワトソンが乗る。ホームズは午後の音楽会の曲を口ずさむばかりで、ほとんど口をきかない。目的地が近づくと、ようやく二人の同行者について語り出す。