第 4 章(IV)夜の待ち伏せThe Red-Headed League

その夜、ベイカー街には警部と、見知らぬ紳士が集まっていた。ホームズに導かれ、一行は馬車で暗いロンドンの街へ向かう。行き着いた先で、明かりを消して息をひそめて待つことになる。追っているのは誰なのか。そしてホームズは、どこで謎を解いたのか。

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  1. 48夜のベイカー街 Night at Baker Streetその夜、ワトソンは公園を抜けてベイカー街へ向かう。戸口には辻馬車が二台止まり、上からは話し声が聞こえる。ホームズの部屋にいたのは、スコットランド・ヤードのピーター・ジョーンズと、やせて陰気な顔をした身なりの立派な男だった。ホームズは上着のボタンを留めながら、その男メリーウェザーを今夜の仲間だと紹介する。
  2. 49二人の同行者 Two Companionsジョーンズ警部は、ホームズを獲物を狩り出す名人、自分をそれを追う老犬にたとえておどける。一方のメリーウェザーは、無駄足に終わらないかと浮かない顔だ。警部は、ホームズのやり方は理屈っぽいが探偵の素質はあると請け合う。メリーウェザーは、二十七年間欠かさなかった土曜の夜のカード遊びができないことを嘆く。
  3. 50ジョン・クレイ John Clayホームズはメリーウェザーに、今夜はいつものカード遊びより大きな勝負になると告げる。賭け金はおよそ三万ポンド。ジョーンズにとっての獲物は、彼が長年追い続けてきた男だという。その名はジョン・クレイ。殺人に盗み、偽造までこなす、名家の出の若き大悪党だ。一同は二台の辻馬車に分かれて出発する。
  4. 51夜の馬車 The Night Drive夜十時過ぎ、二台の辻馬車がベイカー街を出る。前の馬車にはジョーンズ警部と銀行の重役メリーウェザー、後ろの馬車にはホームズとワトソンが乗る。ホームズは午後の音楽会の曲を口ずさむばかりで、ほとんど口をきかない。目的地が近づくと、ようやく二人の同行者について語り出す。
  5. 52地下室へ Down to the Cellar一行はファリントン街を抜け、その日ホームズとワトソンが歩いた、あのにぎやかな大通りで馬車を降りる。メリーウェザーの案内で細い路地から通用口に入り、頑丈な鉄の門をくぐり、曲がりくねった石段を下りて、もう一つの門を抜ける。暗い通路の先にあるのは、木箱が山と積まれた広い地下室だ。
  6. 53うつろな音 A Hollow Soundホームズは、この地下室は上からなら破られにくそうだと言う。するとメリーウェザーが、下からも同じことだとステッキで床の敷石を叩く。ところが返ってきたのは、うつろな音だった。ホームズは厳しく彼を黙らせ、ランタンと拡大鏡を手に床にひざをつくと、敷石のすき間を調べはじめる。
  7. 54フランスの金貨 The French Gold敷石を調べ終えたホームズは、少なくとも一時間は余裕があると言う。人のいい質屋が床につくまで、相手は動けないはずだからだ。そしてホームズは、いま自分たちがどこにいるのかをワトソンに明かす。重役会の会長メリーウェザーによれば、この地下室には悪党たちに狙われるだけのわけがあるという。
  8. 55明かりを消して Into the Dark狙われているのは、地下室にしまってあるフランスの金貨だという。メリーウェザーは、数か月前に銀行がフランス銀行から大量の金貨を借り入れたいきさつを語り、重役たちも不安を抱いていたと打ち明ける。ホームズは一時間以内に事が動くと見て、いよいよ今夜の段取りを決めにかかる。
  9. 56待ち伏せの配置 Taking Positions暗闇の中で待つのかと戸惑うメリーウェザーに、ホームズは、トランプを持ってきていたと明かす。四人そろえば、彼が楽しみにしていた勝負ができると思ったのだ。だが敵の準備はすでに進んでいて、明かりはつけておけない。ホームズは相手を大胆な連中と見て、それぞれの隠れ場所を決めていく。
  10. 57暗闇の中で In Pitch Darknessホームズがランタンの覆いを閉じると、地下室は真っ暗になる。ワトソンは撃鉄を起こした拳銃を木箱の上に置き、その陰にうずくまる。冷たく湿った闇の中で、神経は張りつめるばかりだ。ホームズは、相手の逃げ道はただ一つだとささやき、ジョーンズに頼んでおいた手配を確かめる。
  11. 58長い待ち時間 The Long Wait表の戸口にも警官が待っていると聞き、ホームズは、あとは黙って待つだけだと言う。真っ暗な地下室で、ワトソンは姿勢を変えることもできず、手足はしだいにこわばっていく。張りつめた神経のせいで耳は鋭くなり、仲間の息づかいまで聞き分けられるほどだ。時間は果てしなく長く感じられる。
  12. 59床から出た手 A Hand from the Floor長い待ち時間の末、木箱の陰で見張っていたワトソンの目が、床の敷石の上にかすかな光をとらえる。火花のようなその光は、音もなく少しずつ形を変えていく。ワトソンは息をひそめ、仲間とともに、闇の中で何が起きようとしているのかをじっと見つめる。
  13. 60飛びかかる The Trap Springs敷石の穴から、若い男とその仲間が地下室にはい上がってくる。二人はまだ、闇の中にホームズたちが潜んでいることに気づいていない。男は小声で仲間に道具の用意を確かめる。その瞬間、木箱の陰からホームズが飛び出し、待ち構えていた一行がいっせいに動きだす。
  14. 61観念しろ No Chance at All真夜中の銀行の地下室。床の穴から這い上がってきた男の襟首を、ホームズがつかんで押さえ込む。仲間は穴に飛び込んで逃げ、ジョーンズの手には破れた上着の裾だけが残った。追いつめられた男は、それでも少しも取り乱さない。ホームズはその男を名前で呼び、静かに告げる。
  15. 62王族の血 Royal Blood穴から這い出したところを取り押さえられたジョン・クレイは、ホームズの手際を涼しい顔でほめる。逃げた相棒も戸口で警官に待ち伏せられているという。ジョーンズが手錠をかけようとすると、クレイは高慢な口調でそれをとがめる。追いつめられてもなお、この男は自分を何者だと思っているのか。
  16. 63銀行の感謝 The Bank's Thanks手錠をかけられても、ジョン・クレイは王族の血を引くと言い張り、敬意を払うよう求める。ジョーンズは皮肉たっぷりにそれに応じ、彼を地上へ連れ出そうとする。地下室をあとにしながら、銀行のメリーウェザー氏はホームズに向き直る。大きな盗みを未然に防いでもらった銀行は、どう報いればよいのか。
  17. 64広告のねらい The Purpose of the League事件が片づいた明け方、ホームズとワトソンはベイカー街の部屋に戻り、グラスを手にくつろいでいる。赤毛組合とは結局何だったのか。百科事典を書き写すだけで週四ポンドという、あの奇妙な仕事のねらいはどこにあったのか。ホームズは最初から見抜いていた筋道を、順を追って語りはじめる。
  18. 65地下室の謎 The Cellar Clue明け方のベイカー街で、ホームズの種明かしが続く。赤毛組合は、質屋の主人を毎日店から追い出すための仕掛けだった。では、そうまでして彼らが手に入れたかったものは何なのか。小さな質屋の中に、それほどの手間と金をかける値打ちのある物は見当たらない。ホームズの考えは、助手の奇妙な癖へと向かう。
  19. 66歩道を叩いた理由 Why He Tapped the Pavement地下室でトンネルを掘っている、というところまで考えがたどり着いたホームズ。その段階で、ワトソンを連れてサックス・コバーグ・スクエアを訪ねたのだった。歩道をステッキで叩いたこと、店の助手に道を尋ねたこと。あの日の一見奇妙なふるまいには、それぞれ意味があった。
  20. 67なぜ今夜か Why Tonight明け方のベイカー街で、種明かしはいよいよ大詰めを迎える。トンネルの行き先が背中合わせの銀行だと見抜いたホームズは、音楽会のあとすぐ警察と銀行の重役会の会長に話をつけていた。だが、犯人たちが決行するのがまさに今夜だと、なぜ分かったのか。ワトソンの問いに、ホームズはよどみなく答えていく。
  21. 68退屈しのぎ Escape from Ennui事件の筋道を最後まで語り終え、ワトソンから心からの賛辞を受けたホームズ。だが当の本人は、手柄を誇るでもなく、あくびまじりに答える。彼にとって、この奇妙な事件は何だったのか。夜明けのベイカー街で交わされる短いやりとりで、赤毛組合の物語は幕を閉じる。