Scene 51 · Notes

解説 場面 51「夜の馬車」

この場面の解説

馬車の中で、ホームズは午後に聴いた曲を口ずさむばかりだった。目的地が近づくと、メリーウェザーは銀行の重役でこの件に利害があること、ジョーンズは本職では能なしだが、勇敢でしつこい男だと語る。

表現・文法のポイント

lay back in the cab humming the tunes
lay は lie(横たわる・もたれる)の過去形で、lay back は「後ろにもたれた」。humming 以下は「〜しながら」を表す分詞構文で、「馬車にもたれて曲を口ずさんでいた」となる。他動詞 lay(置く)との混同に注意したい。
an absolute imbecile in his profession
imbecile は「愚か者」を表すかなり強い言葉で、absolute(まったくの)がさらに強めている。in his profession は「本職においては」と範囲を限る言い方。人柄は悪くないが、仕事の腕はさっぱりだ、というホームズらしい辛辣な評価だ。
as tenacious as a lobster if he gets his claws upon anyone
as 〜 as … は「…のように〜」というたとえ。tenacious は「粘り強い・しつこく離さない」。get one's claws upon 〜 は「〜をはさみでつかむ」で、ロブスターのように、一度つかまえた相手は決して離さないという意味になる。

背景・時代

ガス灯(gas-lit streets)
19世紀のロンドンでは、街路の明かりにガス灯が使われ、夕方になると点灯夫が一本ずつ火をともして回った。電灯が広まるのは19世紀の終わりからで、物語の1890年ごろはまだガス灯の時代だった。

全文の対訳

Sherlock Holmes was not very communicative during the long drive and lay back in the cab humming the tunes which he had heard in the afternoon. We rattled through an endless labyrinth of gas-lit streets until we emerged into Farrington Street.

長い道中、シャーロック・ホームズはあまり口をきかず、馬車の座席にもたれて、午後に聴いた曲を口ずさんでいた。私たちはガス灯のともる果てしない迷路のような街路を、がたごとと揺られながら抜けていき、やがてファリントン街に出た。

"We are close there now," my friend remarked. "This fellow Merryweather is a bank director, and personally interested in the matter. I thought it as well to have Jones with us also. He is not a bad fellow, though an absolute imbecile in his profession. He has one positive virtue. He is as brave as a bulldog and as tenacious as a lobster if he gets his claws upon anyone. Here we are, and they are waiting for us."

「もうすぐそこだ」と友が言った。「このメリーウェザーという男は銀行の重役でね、この件には自分の利害もからんでいる。ジョーンズも一緒に連れていくほうがいいと思ったのさ。悪い男ではないんだが、本職のほうはまるきり能なしでね。それでも、はっきりした取り柄がひとつある。ブルドッグのように勇敢で、いったん相手にはさみをかけたら、ロブスターのようにしつこく離さないのだ。さあ着いた、二人とも待っているよ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • communicative(コミューニカティヴ)… 口数の多い・話し好きな難
  • labyrinth(ラビリンス)… 迷路・入り組んだもの難
  • gas-lit(ギャスリット)… ガス灯に照らされた・ガス灯のともる難
  • imbecile(インベスィール)… 愚か者・能なし(強い悪口)難
  • tenacious(テネイシャス)… 粘り強い・しつこく離さない難
  • personally(パーソナリー)… 個人的に・自分としては・本人が
  • profession(プロフェッション)… (専門的な)職業・同業者たち
  • remarked(リマークト)… 言った・述べた

次の場面:地下室へ Down to the Cellar

一行はファリントン街を抜け、その日ホームズとワトソンが歩いた、あのにぎやかな大通りで馬車を降りる。メリーウェザーの案内で細い路地から通用口に入り、頑丈な鉄の門をくぐり、曲がりくねった石段を下りて、もう一つの門を抜ける。暗い通路の先にあるのは、木箱が山と積まれた広い地下室だ。