Scene 57 · Notes

解説 場面 57「暗闇の中で」

この場面の解説

ホームズがランタンの遮光板を閉め、地下室はまったくの暗闇になった。ワトソンは拳銃を用意して木箱の陰で待つ。ホームズは、逃げ道は家を抜けてサックス・コバーグ・スクエアへ出る一本だけだと言い、ジョーンズは表の戸口に警官を待たせてあると答える。

表現・文法のポイント

left us in pitch darkness
pitch は石炭などからとる黒いやに(ピッチ)のことで、pitch darkness や pitch-dark は「真っ暗闇」。left us in 〜 は「私たちを〜の状態に置いた」。少し後の a pitch of expectancy の pitch は「程度・高さ」で、別の意味だ。
ready to flash out at a moment's notice
at a moment's notice は「すぐさま・即座に」。直訳は「一瞬の予告で」。ready to 〜 は「いつでも〜できる状態で」。前の the light を説明していて、明かりは消えたのではなく、いつでもぱっと照らせると言っている。
They have but one retreat
この but は only の意味の副詞で、「ただ一つの逃げ道しかない」。retreat は「退却・逃げ道」。but one は古風で硬い言い方で、今なら only one と言う。この話では but=only の用法が何度も出てくる。

背景・時代

遮光ランタン(dark lantern)
前面に引き戸式の遮光板(slide)がついた手提げランタン。板を閉じれば火を消さずに光だけをさえぎれる。中で油が燃え続けるので金属が熱くなり、そのにおいが残る。警官の夜回りなどに使われた。

全文の対訳

I placed my revolver, cocked, upon the top of the wooden case behind which I crouched. Holmes shot the slide across the front of his lantern and left us in pitch darkness—such an absolute darkness as I have never before experienced. The smell of hot metal remained to assure us that the light was still there, ready to flash out at a moment's notice. To me, with my nerves worked up to a pitch of expectancy, there was something depressing and subduing in the sudden gloom, and in the cold dank air of the vault.

私は撃鉄を起こした拳銃を、身をかがめて隠れた木箱の上に置いた。ホームズがランタンの前の遮光板をさっと閉めると、私たちは真っ暗闇の中に取り残された――これまで味わったことのない、まったくの暗闇だった。熱くなった金属のにおいが残っていて、明かりがまだそこにあり、いつでもぱっと照らし出せることを私たちに知らせていた。期待に神経が張りつめていた私には、急に訪れた闇にも、地下室の冷たくじめじめした空気にも、何か気を滅入らせ、押しつぶすようなものが感じられた。

"They have but one retreat," whispered Holmes. "That is back through the house into Saxe-Coburg Square. I hope that you have done what I asked you, Jones?"

「連中の逃げ道はひとつしかない」とホームズがささやいた。「家の中を抜けて、サックス・コバーグ・スクエアへ戻る道だ。頼んでおいたことは済ませてくれただろうね、ジョーンズ?」

"I have an inspector and two officers waiting at the front door."

「表の戸口には、警部を一人と巡査を二人待たせてありますな」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • cocked(コックト)… (頭を)かしげた・(耳を)立てた・(銃の撃鉄を)起こした(cock の過去形)難
  • expectancy(イクスペクタンスィー)… 期待・待ち受ける気持ち難
  • subduing(サブデューイング)… (気持ちを)押さえつけるような・抑えこむ難
  • gloom(グルーム)… 薄暗がり・闇・憂うつ難
  • dank(ダンク)… じめじめした・冷たく湿った難
  • vault(ヴォールト)… (丸天井の)地下室・地下貯蔵庫・金庫室難
  • experienced(イクスピアリアンスト)… 経験した・味わった・経験豊かな
  • depressing(ディプレッスィング)… 気を滅入らせる・憂うつな

次の場面:長い待ち時間 The Long Wait

表の戸口にも警官が待っていると聞き、ホームズは、あとは黙って待つだけだと言う。真っ暗な地下室で、ワトソンは姿勢を変えることもできず、手足はしだいにこわばっていく。張りつめた神経のせいで耳は鋭くなり、仲間の息づかいまで聞き分けられるほどだ。時間は果てしなく長く感じられる。