Scene 60 · Notes

解説 場面 60「飛びかかる」

この場面の解説

穴から出た男は仲間に道具を確かめるが、異変に気づいて逃げろと叫ぶ。ホームズが飛び出して男の襟首をつかみ、もう一人は上着を裂かれながら穴に逃げこむ。男が拳銃を出すが、ホームズの鞭が手首を打ち、拳銃は床に落ちた。

表現・文法のポイント

Have you the chisel and the bags?
今なら Do you have 〜? と言うところだが、当時のイギリス英語では have を文頭に出す Have you 〜? の形もよく使われた。chisel は「たがね・のみ」で、石や金属を削ったり割ったりする道具だ。
Great Scott!
「なんてこった!」「しまった!」という驚きの叫び。19世紀に広まった言い方で、由来はアメリカの将軍ウィンフィールド・スコットとも言われる。God を直接口にするのを避けた言い方とされる。
I'll swing for it
swing はここでは「絞首刑になる(首をつられてぶら下がる)」という俗語。「そのために縛り首になってもかまわない」という意味で、捕まるくらいなら命がけで抵抗する、という捨て身の覚悟を表している。
seized the intruder by the collar
seize 人 by the 〜 は「人の〜をつかむ」。体の部分や服の一部をつかむときは、his collar ではなく the collar と the を使う。catch him by the arm(彼の腕をつかむ)も同じ形だ。

背景・時代

狩猟用の鞭(hunting crop)
馬に乗って狩りに出るときに使う、短い柄に革ひもの輪がついた鞭。柄の部分は重く硬いので、いざというときは武器にもなった。ホームズはこの夜、ベイカー街を出るときに重い狩猟用の鞭を手に取っていた。

全文の対訳

"It's all clear," he whispered. "Have you the chisel and the bags? Great Scott! Jump, Archie, jump, and I'll swing for it!"

「誰もいないぞ」と男はささやいた。「たがねと袋は持ったか?しまった!跳べ、アーチー、跳ぶんだ、おれは縛り首になってもかまわん!」

Sherlock Holmes had sprung out and seized the intruder by the collar. The other dived down the hole, and I heard the sound of rending cloth as Jones clutched at his skirts. The light flashed upon the barrel of a revolver, but Holmes' hunting crop came down on the man's wrist, and the pistol clinked upon the stone floor.

シャーロック・ホームズはすでに飛び出して、侵入者の襟首をつかんでいた。もう一人は穴に飛びこみ、ジョーンズがその上着のすそにつかみかかったので、布の裂ける音が聞こえた。光が拳銃の銃身にきらりと反射したが、ホームズの狩猟用の鞭が男の手首に振り下ろされ、拳銃はかちんと音を立てて石の床に落ちた。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • chisel(チズル)… たがね・のみ難
  • rending(レンディング)… 引き裂くような・裂ける難
  • clinked(クリンクト)… かちんと鳴った難
  • whispered(ウィスパド)… ささやかれた・ささやいた
  • intruder(イントルーダー)… 侵入者
  • clutched(クラッチト)… (clutch at で)つかみかかった・ぎゅっとつかんだ
  • revolver(リヴォルヴァー)… 回転式拳銃・リボルバー
  • flashed(フラッシュト)… きらりと光った・ぱっと照らした

次の場面:観念しろ No Chance at All

真夜中の銀行の地下室。床の穴から這い上がってきた男の襟首を、ホームズがつかんで押さえ込む。仲間は穴に飛び込んで逃げ、ジョーンズの手には破れた上着の裾だけが残った。追いつめられた男は、それでも少しも取り乱さない。ホームズはその男を名前で呼び、静かに告げる。