Scene 66 · Notes

解説 場面 66「歩道を叩いた理由」

この場面の解説

ホームズは歩道を叩いて、地下室が店の前ではなく裏手に延びていることを確かめ、助手のすり切れたひざを見て穴掘りを確信した。角を曲がって銀行が店と背中合わせだと知り、音楽会のあとでスコットランド・ヤードと銀行の重役会の会長を訪ねたのだった。

表現・文法のポイント

So far I had got
I had got so far の so far を前に出した倒置で、「そこまでは考えが進んでいた」という意味。get はここでは「(ある段階に)達する」。前の場面で語った推理を受けて、話を次へつなぐ言い方になっている。
set eyes upon each other
set eyes on ~ は「~を目にする、見かける」。had never ... before と組み合わせて「それまで一度も顔を合わせたことがなかった」となる。upon は on の少し改まった形。小競り合いはしてきたが、面識はなかったというわけだ。
They spoke of those hours of burrowing.
speak of ~ は「~のことを話す」のほか、物を主語にして「~を物語る、~を示す」という意味にもなる。ズボンのひざの傷みが、何時間も穴を掘っていたことを無言で語っていた、という表現だ。
abutted on
abut on ~ は「~に接する、隣り合う」。建物や土地の境界が接していることを表す、やや硬い語。後ろの premises は「建物と敷地、店舗」の意味で、この意味ではいつも複数形で使う。

背景・時代

シティ(the City)
ロンドン中心部の旧市街で、銀行や商社が集まる金融街。City and Suburban Bank(シティ・アンド・サバーバン銀行)は「シティと郊外の銀行」という意味の名前で、物語のなかの架空の銀行である。

全文の対訳

"So far I had got when we went to visit the scene of action. I surprised you by beating upon the pavement with my stick. I was ascertaining whether the cellar stretched out in front or behind. It was not in front. Then I rang the bell, and, as I hoped, the assistant answered it. We have had some skirmishes, but we had never set eyes upon each other before. I hardly looked at his face. His knees were what I wished to see. You must yourself have remarked how worn, wrinkled, and stained they were. They spoke of those hours of burrowing. The only remaining point was what they were burrowing for. I walked round the corner, saw the City and Suburban Bank abutted on our friend's premises, and felt that I had solved my problem. When you drove home after the concert I called upon Scotland Yard and upon the chairman of the bank directors, with the result that you have seen."

「現場を見に行ったときには、そこまで考えが進んでいた。私がステッキで歩道を叩いて、きみを驚かせただろう。あれは、地下室が店の前に延びているのか、裏に延びているのかを確かめていたのだ。前ではなかった。それから呼び鈴を鳴らすと、思ったとおり、あの助手が出てきた。あの男とはこれまでに何度か小競り合いをしてきたが、顔を合わせたのはそれが初めてだった。顔はほとんど見なかった。私が見たかったのは、彼のひざだ。あのひざがどれほどすり切れ、しわが寄り、汚れていたか、きみも気づいたはずだ。あれは、何時間も穴を掘り進めてきたことを物語っていた。残る問題は、何のために掘っているのか、それだけだった。角を曲がってみると、シティ・アンド・サバーバン銀行が依頼人の店と背中合わせになっているのが分かり、これで問題は解けたと感じた。音楽会のあと、きみが馬車で帰ってから、私はスコットランド・ヤードと、銀行の重役会の会長のもとを訪ねた。その結果は、きみが見たとおりだ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • ascertaining(アサテイニング)… 確かめること・突きとめること難
  • skirmishes(スカーミシズ)… 小競り合い(skirmish の複数形)難
  • burrowing(バロウイング)… 穴を掘ること・掘り進むこと難
  • abutted(アバティッド)… (abut on 〜 で)〜に接していた・隣り合っていた難
  • premises(プレミスィズ)… (建物と敷地をまとめて)店舗・構内・敷地難
  • assistant(アシスタント)… 助手・店員
  • remaining(リメイニング)… 残りの
  • directors(ダイレクターズ)… 重役・取締役(director の複数形)

次の場面:なぜ今夜か Why Tonight

明け方のベイカー街で、種明かしはいよいよ大詰めを迎える。トンネルの行き先が背中合わせの銀行だと見抜いたホームズは、音楽会のあとすぐ警察と銀行の重役会の会長に話をつけていた。だが、犯人たちが決行するのがまさに今夜だと、なぜ分かったのか。ワトソンの問いに、ホームズはよどみなく答えていく。