Scene 68 · Notes

解説 場面 68「退屈しのぎ」

この場面の解説

ホームズは、この事件のおかげで退屈から逃れられたとあくびまじりに答え、ありふれた日常から逃れるために事件を求めているのだと語る。人類の恩人だとほめるワトソンに、彼は肩をすくめ、フローベールの言葉を引いてみせる。

表現・文法のポイント

It saved me from ennui
save ~ from ... は「~を…から救う」。ennui はフランス語から入った語で「退屈、倦怠」。ただ暇なだけでなく、何もかもつまらなく感じる気分のことだ。ホームズにとって事件は、この退屈から逃れる手段だった。
the commonplaces of existence
commonplace は「ありふれたこと、平凡な事柄」で、ここでは複数形。existence はここでは「生活、日々の営み」。「日々のありふれた出来事」という意味で、ホームズが平凡な毎日をいかに嫌っているかが分かる。
a benefactor of the race
benefactor は「恩人、後援者」。the race はここでは the human race(人類)のこと。「人類の恩人」という大げさなほめ言葉で、ワトソンは、ホームズが事件を解決して世の中の役に立っていると言っている。
it is of some little use
of + 抽象名詞で形容詞の働きをし、of use は useful(役に立つ)と同じ意味になる。some little は「いくらかの、少しの」。「少しは役に立っている」と控えめに言い、ほめ言葉を軽く受け流している。

背景・時代

フローベールとサンド(Flaubert and George Sand)
ギュスターヴ・フローベールは『ボヴァリー夫人』で知られるフランスの作家。ジョルジュ・サンドは同じくフランスの女性作家で、二人は長く手紙を交わした。引用は「人間は無、作品こそすべて」という意味で、実際の手紙の文とは少し違っている。

全文の対訳

"It saved me from ennui," he answered, yawning. "Alas! I already feel it closing in upon me. My life is spent in one long effort to escape from the commonplaces of existence. These little problems help me to do so."

「おかげで退屈せずにすんだよ」と彼はあくびをしながら答えた。「ああ!もうその退屈が、またじわじわと私に迫ってくるのを感じる。私の人生は、ありふれた日々から逃れようとする、ひとつの長い努力についやされているのだ。こうしたささやかな事件が、その助けになってくれる」

"And you are a benefactor of the race," said I.

「しかも、きみは人類の恩人というわけだ」と私は言った。

He shrugged his shoulders. "Well, perhaps, after all, it is of some little use," he remarked. "'L'homme c'est rien—l'œuvre c'est tout,' as Gustave Flaubert wrote to George Sand."

彼は肩をすくめた。「まあ、ことによると、結局は少しばかり役に立っているのかもしれないね」と彼は言った。「ギュスターヴ・フローベールがジョルジュ・サンドに書き送ったとおり、『人間は無、作品こそすべて』というわけさ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • ennui(オンウィー)… 退屈・倦怠(フランス語から)難
  • alas(アラス)… ああ(嘆き・悲しみの声。古風)難
  • commonplaces(コモンプレイスィズ)… ありふれた事柄・平凡なこと難
  • benefactor(ベネファクター)… 恩人・後援者・寄付をした人難
  • l'homme(ロム)… (フランス語)人間・男(l' は定冠詞)難
  • c'est(セ)… (フランス語)〜である(英語の it is)難
  • rien(リアン)… (フランス語)無・何でもないもの難
  • l'œuvre(ルーヴル)… (フランス語)作品・仕事(l' は定冠詞)難
  • tout(トゥー)… (フランス語)すべて難

収録分はここまでです

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