Scene 01 · Notes

解説 場面 1「クリスマス明けの訪問」

この場面の解説

クリスマスの二日後の朝、ワトソンはホームズを訪ねる。ホームズはソファでくつろぎながら、椅子の背に掛けた古い帽子をレンズで調べていた。つまらない品だが、おもしろく、ためにさえなる点がある、とホームズは言う。

表現・文法のポイント

the compliments of the season
「季節の挨拶」。クリスマスや新年の時期に交わす「おめでとう」の挨拶を指す、改まった言い方。wish+人+the compliments of the season で「人に季節の挨拶を述べる」。wish は「願う」から「(挨拶を)述べる」の意味で使われている。
much the worse for wear
the worse for wear は「使い古されて傷んだ」。比較級の前の the は「その分だけ」を表し、much で強めて「すっかり傷んだ」となる。人について使えば「疲れ果てた」の意味にもなる、くだけた決まり文句だ(酔っていることは the worse for drink と言う)。
You are engaged
engaged は「婚約した」のほか、「手がふさがっている・取り込み中だ」の意味がある。ホームズが帽子を調べている最中なので、ワトソンは「忙しそうだね」と気づかい、続けて「邪魔をしたかな」と言っている。
not entirely devoid of interest
devoid of は「〜をまったく欠いた」。not entirely と否定を重ねて「まったく〜がないわけではない」、つまり「なかなかおもしろい」と控えめに言う英国風の言い回しだ。ホームズは本当は大いに興味を持っている。

背景・時代

ドレッシング・ガウン(dressing-gown)
室内で着る、丈の長いゆったりしたガウン。当時の紳士は家でくつろぐとき、上着の代わりにこれを羽織った。ホームズは事件のない日、ガウン姿で新聞を読んだりパイプをふかしたりして過ごす。

全文の対訳

I had called upon my friend Sherlock Holmes upon the second morning after Christmas, with the intention of wishing him the compliments of the season. He was lounging upon the sofa in a purple dressing-gown, a pipe-rack within his reach upon the right, and a pile of crumpled morning papers, evidently newly studied, near at hand. Beside the couch was a wooden chair, and on the angle of the back hung a very seedy and disreputable hard-felt hat, much the worse for wear, and cracked in several places. A lens and a forceps lying upon the seat of the chair suggested that the hat had been suspended in this manner for the purpose of examination.

クリスマスから二日後の朝、私は季節の挨拶を述べようと、友人シャーロック・ホームズを訪ねた。彼は紫のガウン姿でソファに寝そべってくつろいでいた。右手の届くところにはパイプ掛けがあり、すぐそばには、読み終えたばかりらしいしわくちゃの朝刊が山になっていた。ソファの脇には木の椅子があり、その背もたれの角に、ひどくくたびれてみすぼらしい固いフェルトの帽子が掛かっていた。すっかり傷んで、何か所もひびが入っている。椅子の座面にレンズとピンセットが置いてあるところを見ると、帽子は調べるためにこうして掛けてあるらしかった。

"You are engaged," said I; "perhaps I interrupt you."

「取り込み中だね」と私は言った。「邪魔をしたかな」

"Not at all. I am glad to have a friend with whom I can discuss my results. The matter is a perfectly trivial one"—he jerked his thumb in the direction of the old hat—"but there are points in connection with it which are not entirely devoid of interest and even of instruction."

「いや、ちっとも。調べた結果を話し合える友人が来てくれて、うれしいよ。事件としてはまったくつまらないものなんだが」——彼は親指で古い帽子のほうをぐいと指した——「これには、なかなかおもしろく、ためにさえなる点がいくつかあってね」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • pipe-rack(パイプラック)… パイプ掛け(パイプを立てておく台)難
  • seedy(スィーディー)… みすぼらしい・くたびれた難
  • disreputable(ディスレピュタブル)… みすぼらしい・いかがわしい・評判の悪い難
  • hard-felt(ハードフェルト)… 固いフェルト製の難
  • forceps(フォーセップス)… ピンセット・鉗子(かんし)難
  • devoid(ディヴォイド)… (devoid of で)〜を欠いた・〜のない難
  • dressing-gown(ドレッシングガウン)… ガウン・部屋着
  • compliments(コンプリメンツ)… (the compliments of the season で)季節の挨拶・ほめ言葉(compliment の複数形)

次の場面:ありふれた帽子 A Homely Old Hat

ホームズは、帽子の件はまったくつまらないものだと言いながら、おもしろく、ためにさえなる点があるとも言う。外は厳しい冷え込みで、窓には氷の結晶がびっしり張りついている。ワトソンは肘掛け椅子に腰を下ろし、暖炉の火で手を温める。