Scene 04 · Notes

解説 場面 4「夜の通りで」

この場面の解説

帽子はピーターソンがクリスマスの朝に拾ったものだった。ガチョウをかついだ男がごろつきにからまれ、杖を振り回して店の窓を割り、制服のピーターソンが駆け寄るのを見ると、ガチョウを放り出して逃げてしまったのだ。こうしてピーターソンの手に、古い帽子と立派なガチョウが残された。

表現・文法のポイント

I beg that you will look upon it
I beg that you will 〜 は「どうか〜していただきたい」という、ていねいで改まった頼み方。look upon A as B は「A を B とみなす」。ぼろぼろの帽子を、頭を使う問題として見てほしいとワトソンに求めている。
on which he raised his stick
on which は「それを受けて・そのとたんに」の意味で、前の出来事(帽子をたたき落とされたこと)を指す。「すると男は杖を振り上げ」と、出来事が続けざまに起こる様子を一つの文でつないでいる。
took to his heels
take to one's heels は「一目散に逃げ出す」という決まった言い方。かかと(heels)を見せて走り去る様子から来ている。dropped his goose, took to his heels, and vanished と動詞を三つ並べ、慌てて逃げる速さを表している。
in possession of the field of battle
be left in possession of the field は、敵が逃げたあと戦場に残った側、つまり「勝った側」を表す軍隊風の言い回し。ホームズは街角のけんかをわざと戦争の勝利のように大げさに語り、spoils of victory(戦利品)と続けている。

背景・時代

ガス灯(gaslight)
当時のロンドンの街路はガス灯で照らされていた。夜明け前の暗い通りでも、その明かりのおかげで、ピーターソンは前を行く男の姿を見ることができた。
クリスマスのガチョウ(Christmas goose)
当時のイギリスでは、クリスマスのごちそうとして、丸ごと焼いたガチョウを食べる家庭が多かった。肥えたガチョウは、クリスマスの食卓の主役だった。

全文の対訳

"No, no, he found it. Its owner is unknown. I beg that you will look upon it not as a battered billycock but as an intellectual problem. And, first, as to how it came here. It arrived upon Christmas morning, in company with a good fat goose, which is, I have no doubt, roasting at this moment in front of Peterson's fire. The facts are these: about four o'clock on Christmas morning, Peterson, who, as you know, is a very honest fellow, was returning from some small jollification and was making his way homeward down Tottenham Court Road. In front of him he saw, in the gaslight, a tallish man, walking with a slight stagger, and carrying a white goose slung over his shoulder. As he reached the corner of Goodge Street, a row broke out between this stranger and a little knot of roughs. One of the latter knocked off the man's hat, on which he raised his stick to defend himself and, swinging it over his head, smashed the shop window behind him. Peterson had rushed forward to protect the stranger from his assailants; but the man, shocked at having broken the window, and seeing an official-looking person in uniform rushing towards him, dropped his goose, took to his heels, and vanished amid the labyrinth of small streets which lie at the back of Tottenham Court Road. The roughs had also fled at the appearance of Peterson, so that he was left in possession of the field of battle, and also of the spoils of victory in the shape of this battered hat and a most unimpeachable Christmas goose."

「いや、いや、彼が拾ったのさ。持ち主はわからない。どうか、これをぼろぼろの山高帽としてではなく、頭を使う問題として見てくれたまえ。まずは、これがどうやってここへ来たかだ。クリスマスの朝、よく肥えた立派なガチョウといっしょにやって来たのだが、そのガチョウはきっと、いまごろピーターソンの家の暖炉の前で焼かれているはずだ。事実はこうだ。クリスマスの朝四時ごろ、知ってのとおりとても正直な男であるピーターソンが、ちょっとした酒盛りの帰りに、トテナム・コート・ロードを家へ向かって歩いていた。ガス灯の明かりの中、彼の前を、やや背の高い男が少しふらつきながら歩いていくのが見えた。男は白いガチョウを肩にかついでいた。男がグッジ街の角まで来たとき、この見知らぬ男と、数人のごろつきの一団との間でけんかが始まった。ごろつきの一人が男の帽子をたたき落とすと、男は身を守ろうと杖を振り上げたが、頭の上で振り回したはずみに、背後の店の窓を割ってしまった。ピーターソンは、襲いかかった連中から男を守ろうと駆け寄ったのだが、男のほうは窓を割ってしまったことにうろたえ、そのうえ制服を着たいかにも役人らしい人物が自分のほうへ駆けてくるのを見て、ガチョウを放り出して一目散に逃げ出し、トテナム・コート・ロードの裏手に入り組む迷路のような小道の中へ消えてしまった。ごろつきどももピーターソンが現れると逃げてしまったので、彼は一人で戦場に残され、勝利の戦利品まで手にしたというわけだ。このぼろぼろの帽子と、文句のつけようのないクリスマスのガチョウをね」

"Which surely he restored to their owner?"

「それはもちろん、持ち主に返したんだろうね?」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • billycock(ビリーコック)… 山高帽(丸くて固いフェルトの帽子)難
  • jollification(ジョリフィケイション)… お祭り騒ぎ・浮かれ騒ぎ難
  • homeward(ホウムワード)… 家へ向かって難
  • gaslight(ギャスライト)… ガス灯の明かり難
  • tallish(トーリッシュ)… やや背の高い難
  • slung(スラング)… (肩などに)かけられた・つるされた(sling の過去分詞)難
  • roughs(ラフス)… ごろつき・乱暴者たち難
  • assailants(アセイランツ)… 襲ってきた者たち・加害者(assailant の複数形)難
  • official-looking(オフィシャルルッキング)… 公の人らしく見える・いかにも役所風の難
  • amid(アミッド)… ~に囲まれて・~の中で難
  • labyrinth(ラビリンス)… 迷路・入り組んだもの難
  • spoils(スポイルズ)… 戦利品・分捕り品難
  • unimpeachable(アンインピーチャブル)… 非の打ちどころがない・申し分ない難

次の場面:持ち主の手がかり A Clue to the Owner

ピーターソンの手には、逃げた男の帽子とガチョウが残された。当然、持ち主に返したのだろうと尋ねるワトソンに、ホームズは、そこが問題なのだと答える。さて、持ち主へつながる手がかりは、いったい何かあるのだろうか。