Scene 05 · Notes

解説 場面 5「持ち主の手がかり」

この場面の解説

ガチョウの脚には『ヘンリー・ベイカー夫人へ』という札があり、帽子には H・B の頭文字があったが、同じ名前の人は大勢いる。ガチョウは傷まないうちにとピーターソンが持ち帰り、帽子だけがホームズの手元に残った。持ち主の手がかりは、帽子から推理できることしかない。

表現・文法のポイント

there lies the problem
there lies 〜 は「そこに〜がある」。場所を表す there を文頭に出し、主語の the problem を後ろに回した倒置の形で、「まさにそこが問題なのだ」と強めている。lies は「横たわる」から「(問題などが)ある」の意味で使われている。
this city of ours
「私たちのこの街」。this と ours を同時に名詞にかけるときは、this our city とは言わず、this city of ours の形にする。a friend of mine と同じ作りで、ロンドンへの親しみがこもった言い方だ。
to fulfil the ultimate destiny of a goose
「ガチョウとしての最後の運命を全うさせる」、つまり料理されて食べられること。食べてしまうことを、わざと重々しい言葉で言い表したホームズ流のユーモアだ。fulfil はイギリス英語のつづりで、アメリカ英語では fulfill。
as to his identity
as to は「〜について・〜に関して」で、about よりかたい言い方。identity は「身元・正体」。ワトソンは、帽子の持ち主がだれなのかについて、どんな手がかりがあるのかと尋ねている。

全文の対訳

"My dear fellow, there lies the problem. It is true that 'For Mrs. Henry Baker' was printed upon a small card which was tied to the bird's left leg, and it is also true that the initials 'H. B.' are legible upon the lining of this hat, but as there are some thousands of Bakers, and some hundreds of Henry Bakers in this city of ours, it is not easy to restore lost property to any one of them."

「きみ、そこが問題なのだ。たしかに鳥の左脚には『ヘンリー・ベイカー夫人へ』と印刷した小さな札が結びつけてあったし、この帽子の裏地にも『H・B』という頭文字が読み取れる。だが、この街にはベイカーという人が何千人も、ヘンリー・ベイカーだって何百人もいるのだから、そのうちの誰かに落とし物を返すのは容易ではない」

"What, then, did Peterson do?"

「それで、ピーターソンはどうしたんだい?」

"He brought round both hat and goose to me on Christmas morning, knowing that even the smallest problems are of interest to me. The goose we retained until this morning, when there were signs that, in spite of the slight frost, it would be well that it should be eaten without unnecessary delay. Its finder has carried it off, therefore, to fulfil the ultimate destiny of a goose, while I continue to retain the hat of the unknown gentleman who lost his Christmas dinner."

「どんなに小さな問題でも私が興味を持つと知っているから、クリスマスの朝、帽子とガチョウを両方とも私のところへ持ってきたのだ。ガチョウはけさまで預かっていたが、少し冷え込んでいるとはいえ、そろそろぐずぐずせずに食べてしまったほうがよさそうな様子になってきた。そこで拾い主が持ち帰り、ガチョウとしての最後の運命を全うさせることになった。一方の私は、クリスマスのごちそうをなくした見知らぬ紳士の帽子を、いまも預かっているというわけさ」

"Did he not advertise?"

「その人は広告を出さなかったのかい?」

"No."

「出していない」

"Then, what clue could you have as to his identity?"

「じゃあ、その人の身元について、どんな手がかりがあるというんだい?」

"Only as much as we can deduce."

「推理して引き出せるものしかない」

"From his hat?"

「帽子から?」

"Precisely."

「そのとおり」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • legible(レジブル)… 読み取れる・判読できる難
  • unnecessary(アンネセサリー)… 必要のない・余計な
  • therefore(ゼアフォー)… それゆえ・したがって
  • advertise(アドヴァタイズ)… 広告を出す・宣伝する
  • precisely(プリサイスリー)… その通り・正確に
  • initials(イニシャルズ)… 頭文字・イニシャル(initial の複数形)
  • property(プロパティー)… 所有物・財産・特性
  • retained(リテインド)… 手元に置いた・保った(retain の過去形・過去分詞)

次の場面:帽子を手に取る The Hat in My Hands

持ち主の手がかりは、帽子から推理できることだけ。そんなのは冗談だろうと言うワトソンに、ホームズはレンズを差し出し、きみなら何が読み取れるかと問いかける。ワトソンは古ぼけた帽子を手に取り、裏地やつば、あちこちの染みを、いささか気の進まない様子で調べはじめる。