Scene 06 · Notes

解説 場面 6「帽子を手に取る」

この場面の解説

ホームズはレンズを渡し、帽子から持ち主の人となりを読み取ってみろとワトソンに言う。ワトソンは、色あせた赤い絹の裏地、H・B の頭文字、ゴムひものない留め具の穴、インクで隠した染みなどを確かめるが、何もわからないと言って帽子を返す。

表現・文法のポイント

You know my methods.
「私のやり方は知っているだろう」。観察から推理を組み立てるやり方を、ワトソンもよく知っているはずだと促す言葉で、ホームズのお決まりの言い方の一つ。methods と複数形で「(いつもの)やり方・手法」を表している。
turned it over rather ruefully
turn over は「ひっくり返す」。ruefully は「情けなさそうに・困ったように」。rather(いささか)を添えて、ホームズに試されて少し気が重いワトソンの気持ちを表している。
a good deal discoloured
a good deal は「かなり・ずいぶん」で、ここでは形容詞 discoloured(色があせた)を強める副詞として使われている。discoloured はイギリス英語のつづりで、アメリカ英語では discolored。
For the rest
「そのほかの点では・あとは」。裏地や頭文字など目立つ特徴を述べたあと、残りの細かな傷み具合をまとめて述べるときの前置きになっている。

背景・時代

帽子留め(hat-securer)
風で帽子が飛ばされないように、帽子と上着とをひもでつないでおく道具。帽子のつばにあいた穴は、そのひもを通すためのものだ。

全文の対訳

"But you are joking. What can you gather from this old battered felt?"

「冗談だろう。こんな古ぼけたフェルトの帽子から、何がわかるというんだい?」

"Here is my lens. You know my methods. What can you gather yourself as to the individuality of the man who has worn this article?"

「ここにレンズがある。私のやり方は知っているだろう。この品をかぶっていた男の人となりについて、きみ自身は何が読み取れるかね?」

I took the tattered object in my hands and turned it over rather ruefully. It was a very ordinary black hat of the usual round shape, hard and much the worse for wear. The lining had been of red silk, but was a good deal discoloured. There was no maker's name; but, as Holmes had remarked, the initials "H. B." were scrawled upon one side. It was pierced in the brim for a hat-securer, but the elastic was missing. For the rest, it was cracked, exceedingly dusty, and spotted in several places, although there seemed to have been some attempt to hide the discoloured patches by smearing them with ink.

私はそのぼろぼろの代物を手に取り、いささか情けない気持ちでひっくり返してみた。ごくありふれた、よくある丸い形の黒い帽子で、固く、すっかり傷んでいた。裏地はもとは赤い絹だったが、ずいぶん色があせていた。製造元の名前はなかったが、ホームズの言ったとおり、片側に「H・B」という頭文字が走り書きしてあった。つばには帽子留めを通す穴があいていたが、ゴムひもはなくなっていた。そのほかは、ひびが入り、ひどくほこりっぽく、あちこちに染みがあった。もっとも、色のあせたところは、インクを塗りつけて隠そうとしたらしかった。

"I can see nothing," said I, handing it back to my friend.

「何もわからないよ」と私は言って、帽子を友人に返した。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • individuality(インディヴィジュアリティー)… 人となり・個性難
  • tattered(タタード)… ぼろぼろの・ずたずたの難
  • ruefully(ルーフリー)… 情けなさそうに・悲しげに難
  • discoloured(ディスカラード)… 変色した・色あせた難
  • scrawled(スクロールド)… 走り書きされた・乱雑に書きなぐられた難
  • brim(ブリム)… (帽子の)つば・縁難
  • hat-securer(ハットスィキュアラー)… 帽子の留め具(帽子が飛ばないよう服とつなぐひも)難
  • exceedingly(イクスィーディングリー)… きわめて・非常に難

次の場面:ホームズの読み What Holmes Infers

何もわからないと言って帽子を返したワトソンに、ホームズは、きみには何もかも見えているのに、そこから推理する勇気が足りないだけだと言う。そして帽子を手に取ると、いつもの独特のまなざしでじっと見つめ、持ち主について読み取ったことを、一つずつ語りはじめる。