Scene 08 · Notes

解説 場面 8「頭の大きさ」

この場面の解説

ホームズは、持ち主が座りがちの暮らしをする中年の男で、最近散髪してライムクリームをつけており、家にはおそらくガスが引かれていないとまで言う。どう推理したのかと問うワトソンに、ホームズは帽子をかぶってみせる。帽子は鼻すじまでずり落ち、これほど大きな頭なら中身もあるはずだ、というのが答えだった。

表現・文法のポイント

which he has had cut
have+もの+過去分詞 は「〜してもらう」という使役の形。has had cut で「(髪を)刈ってもらった」。自分で切ったのではなく、床屋で切ってもらったということを表している。
gas laid on
lay on は「(ガス・水道などを)引く」。have gas laid on で「ガスが引かれている」。帽子を見ただけで、持ち主の家にガスが来ているかどうかまでわかるとホームズは言い、ワトソンをますます驚かせる。
Not in the least.
not in the least は「少しも〜ない」という強い否定。「冗談だろう」と言われたのに対し、「冗談などではまったくない」と打ち消している。not at all と同じ意味の、少しかたい言い方だ。
so large a brain
so+形容詞+a+名詞 の語順で「これほど〜な…」。such a large brain と同じ意味だが、so を使うと形容詞が冠詞の前に出る。改まった言い方で、ホームズの話しぶりに合っている。

背景・時代

ガス(gas)
当時のロンドンでは、ガスはおもに明かりに使われた。街路のガス灯だけでなく、家の中までガス管を引いて、部屋をガス灯で照らす家もあった。

全文の対訳

"He has, however, retained some degree of self-respect," he continued, disregarding my remonstrance. "He is a man who leads a sedentary life, goes out little, is out of training entirely, is middle-aged, has grizzled hair which he has had cut within the last few days, and which he anoints with lime-cream. These are the more patent facts which are to be deduced from his hat. Also, by the way, that it is extremely improbable that he has gas laid on in his house."

「とはいえ、ある程度の自尊心はまだ失っていない」と、彼は私の抗議にかまわず続けた。「座ってばかりの暮らしで、めったに出歩かず、体はすっかりなまっている中年の男だ。白髪まじりの髪をここ数日のうちに刈ってもらい、ライムクリームをつけている。これらが、帽子から推理できる事実のうちの、わかりやすいほうだ。ついでに言えば、彼の家にガスが引かれている見込みはきわめて低い、ということもわかる」

"You are certainly joking, Holmes."

「冗談に決まっているよ、ホームズ」

"Not in the least. Is it possible that even now, when I give you these results, you are unable to see how they are attained?"

「冗談などであるものか。こうして結果まで教えても、まだどうやってそこへたどり着いたのか、わからないというのかね?」

"I have no doubt that I am very stupid, but I must confess that I am unable to follow you. For example, how did you deduce that this man was intellectual?"

「私がひどく鈍いのはきっとそうなんだろうが、正直なところ、きみの話についていけないよ。たとえば、この男の頭がいいことは、どうやって推理したんだい?」

For answer Holmes clapped the hat upon his head. It came right over the forehead and settled upon the bridge of his nose. "It is a question of cubic capacity," said he; "a man with so large a brain must have something in it."

答える代わりに、ホームズは帽子をぽんと自分の頭にのせた。帽子は額をすっぽりおおい、鼻すじのところで止まった。「容積の問題さ」と彼は言った。「これほど大きな脳の持ち主なら、中に何か入っているにちがいない」

"The decline of his fortunes, then?"

「じゃあ、暮らし向きが傾いたというのは?」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • disregarding(ディスリガーディング)… 無視して・気にとめずに難
  • remonstrance(リモンストランス)… 抗議・いさめること難
  • sedentary(セデンタリー)… 座りがちの・あまり動かない難
  • grizzled(グリズルド)… 白髪まじりの難
  • anoints(アノインツ)… (油などを)塗る(anoint の 3 人称単数現在形)難
  • lime-cream(ライムクリーム)… ライムクリーム(ライムの香りの整髪料)難
  • patent(ペイテント)… 明らかな・特許難
  • deduced(ディデュースト)… 推理した・推論した難
  • cubic(キュービック)… 体積の・立方の難

次の場面:帽子留め The Hat-Securer

クリスマス明けのベイカー街。守衛のピーターソンが置いていった古い帽子から、ホームズは持ち主の姿を次々に言い当てていく。頭の大きさで知性を読んだあと、彼は帽子の古さと品質に目を移す。ワトソンは、先見の明や品性の衰えまで分かるという話の根拠を問う。