Scene 21 · Notes

解説 場面 21「夕暮れの客」

この場面の解説

ワトソンが六時半過ぎにベイカー街へ戻ると、スコットランド帽の背の高い男が戸口で待っていた。ホームズは男をヘンリー・ベイカーと呼んで愛想よく迎え、暖炉のそばの椅子を勧める。男は帽子を見て、確かに自分のものだと答える。

表現・文法のポイント

I found myself in Baker Street once more
find oneself 〜 は「(気がつくと)〜にいる」。自分の意志で行ったというより、成り行きでそこに着いた感じを表す。once more は「もう一度、ふたたび」。
Pray take this chair by the fire
Pray は please に当たる古風でていねいな言い方。もとは I pray you(お願いします)の略で、命令文の頭につけて客への勧めをやわらげている。「どうぞ〜なさってください」くらいの感じだ。
your circulation is more adapted for summer than for winter
be adapted for 〜 は「〜に向いている」。血のめぐりが冬より夏向きだ、とは寒さがこたえる体だという遠回しな言い方で、だから暖炉のそばへどうぞ、とつながる。

背景・時代

明かり取り窓(fanlight)
玄関の扉の上にある半円形の窓。扇(fan)を広げた形なのでこう呼ぶ。夜は家の中の明かりがここから外の石段に漏れた。

全文の対訳

I had been delayed at a case, and it was a little after half-past six when I found myself in Baker Street once more. As I approached the house I saw a tall man in a Scotch bonnet with a coat which was buttoned up to his chin waiting outside in the bright semicircle which was thrown from the fanlight. Just as I arrived the door was opened, and we were shown up together to Holmes' room.

私はある患者のところで手間取り、ふたたびベイカー街に着いたときには、六時半を少し回っていた。家に近づくと、スコットランド帽をかぶり、上着のボタンをあごまで留めた背の高い男が、扉の上の明かり取り窓から落ちる明るい半円の中で、外に立って待っているのが見えた。ちょうど私が着いたところで扉が開き、私たちはそろってホームズの部屋へ案内された。

"Mr. Henry Baker, I believe," said he, rising from his armchair and greeting his visitor with the easy air of geniality which he could so readily assume. "Pray take this chair by the fire, Mr. Baker. It is a cold night, and I observe that your circulation is more adapted for summer than for winter. Ah, Watson, you have just come at the right time. Is that your hat, Mr. Baker?"

「ヘンリー・ベイカーさんですね」とホームズは肘掛け椅子から立ち上がり、彼がいつでもたやすく身にまとえる、気さくで愛想のよい態度で客を迎えた。「どうぞ、暖炉のそばのこの椅子へ、ベイカーさん。寒い晩ですし、お見受けしたところ、あなたの血のめぐりは冬より夏に向いているようですからね。ああ、ワトソン、ちょうどいいところに来た。これはあなたの帽子ですか、ベイカーさん?」

"Yes, sir, that is undoubtedly my hat."

「ええ、間違いなく私の帽子ですな」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • bonnet(ボンネット)… ボンネット(あごひもで結ぶ婦人帽)・(英)車のボンネット難
  • fanlight(ファンライト)… (扉の上の)扇形の明かり取り窓難
  • geniality(ジーニアリティー)… 愛想のよさ・人当たりのよさ難
  • circulation(サーキュレイション)… 血のめぐり・循環
  • undoubtedly(アンダウティッドリー)… 疑いなく・間違いなく
  • approached(アプロウチト)… 近づいた(approach の過去・過去分詞)
  • semicircle(セミサークル)… 半円
  • buttoned(バトゥンド)… ボタンを留めた(button の過去・過去分詞)

次の場面:ヘンリー・ベイカー Mr. Henry Baker

広告を見てやって来た男が、ベイカー街の居間に通される。ホームズは男をヘンリー・ベイカーと呼んで暖炉のそばに座らせ、男は差し出された古い帽子を自分のものだと認める。ワトソンは、明かりの下で、この客の姿をあらためてよく眺める。