Scene 22 · Notes

解説 場面 22「ヘンリー・ベイカー」

この場面の解説

ヘンリー・ベイカーは肩の丸い大柄な男で、赤らんだ鼻と頬、震える手、着古したコートに、ホームズの推理どおりの暮らしぶりがうかがえた。なぜ広告を出さなかったのかと問われ、彼は金の余裕がなく、帽子も鳥も奪われたと思っていたと答える。ホームズは、鳥は食べてしまったと告げる。

表現・文法のポイント

recalled Holmes' surmise as to his habits
recall はふつう「思い出す」だが、ここでは物が主語で「〜を思い出させる」。as to 〜 は「〜について」。鼻と頬の赤みや手の震えが、彼の習慣についてのホームズの推理を思い出させた、という意味。
I am at a loss to know now why you did not advertise
be at a loss は「途方に暮れている」。at a loss to know why 〜 で「なぜ〜なのか見当がつかない」。ホームズは客に、なぜ自分から広告を出さなかったのかと、ていねいに尋ねている。
Shillings have not been so plentiful with me as they once were
not so 〜 as … は「…ほど〜ではない」。シリングが以前ほど手もとにない、つまり懐が寂しいということを、遠回しに、もったいぶって言っている。
we were compelled to eat it
be compelled to 〜 は「〜せざるをえない」。やむをえずそうした、という言い方で、勝手に食べたわけではないと言い訳めかした、ホームズのとぼけた調子が出ている。

背景・時代

シリング(shilling)
英国の昔の通貨の単位。20 シリングで 1 ポンド、1 シリングは 12 ペンスだった。

全文の対訳

He was a large man with rounded shoulders, a massive head, and a broad, intelligent face, sloping down to a pointed beard of grizzled brown. A touch of red in nose and cheeks, with a slight tremor of his extended hand, recalled Holmes' surmise as to his habits. His rusty black frock-coat was buttoned right up in front, with the collar turned up, and his lank wrists protruded from his sleeves without a sign of cuff or shirt. He spoke in a slow staccato fashion, choosing his words with care, and gave the impression generally of a man of learning and letters who had had ill-usage at the hands of fortune.

彼は肩の丸い大柄な男で、頭は大きく、幅の広い知的な顔は、白髪まじりの茶色のとがったあごひげへと細まっていた。鼻と頬にほんのり赤みがさし、差し出した手がかすかに震えているのを見て、私は、彼の習慣についてのホームズの推測を思い出した。色あせた黒のフロックコートは前をきっちりボタンで留めて襟を立て、細い手首が、カフスもシャツものぞかせずに袖から突き出ていた。彼は言葉を慎重に選びながら、ゆっくりと区切るように話し、全体として、運命にひどい仕打ちを受けた、学問と教養のある人という印象を与えた。

"We have retained these things for some days," said Holmes, "because we expected to see an advertisement from you giving your address. I am at a loss to know now why you did not advertise."

「これらの品は数日のあいだお預かりしていました」とホームズは言った。「あなたのほうから、住所を書いた広告が出るものと思っていたものですから。なぜ広告をお出しにならなかったのか、いまだに見当がつきません」

Our visitor gave a rather shamefaced laugh. "Shillings have not been so plentiful with me as they once were," he remarked. "I had no doubt that the gang of roughs who assaulted me had carried off both my hat and the bird. I did not care to spend more money in a hopeless attempt at recovering them."

客は少しきまり悪そうに笑った。「近ごろは、以前ほどシリングが手もとにありませんでしてな」と彼は言った。「私を襲ったごろつきの一団が、帽子も鳥も持ち去ったものとばかり思っておりました。見込みのない取り戻しのために、これ以上金を使う気にはなれませんでしてな」

"Very naturally. By the way, about the bird, we were compelled to eat it."

「ごもっともです。ところで、鳥のことですが、私たちはあれを食べざるをえませんでした」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • grizzled(グリズルド)… 白髪まじりの難
  • tremor(トレマー)… 震え難
  • surmise(サーマイズ)… 推測難
  • frock-coat(フロックコウト)… フロックコート(ひざ丈の男性用上着)難
  • lank(ランク)… やせて細長い・(髪が)まっすぐ垂れた難
  • protruded(プロトルーディッド)… 突き出た・はみ出した難
  • staccato(スタカートウ)… とぎれとぎれの・スタッカートの難
  • ill-usage(イルユースィッジ)… ひどい扱い・虐待難
  • shamefaced(シェイムフェイスト)… きまり悪そうな・恥ずかしそうな難
  • roughs(ラフス)… ごろつき・乱暴者たち難

次の場面:ガチョウの行方 The Fate of the Goose

ベイカー街の部屋を訪ねてきたヘンリー・ベイカーは、新聞広告を出さなかったのは金に余裕がないからだと打ち明ける。ホームズは、落とし物のガチョウはやむを得ず食べてしまったと告げる。驚いて腰を浮かせる客に、ホームズは代わりのガチョウを差し出す。