Scene 23 · Notes

解説 場面 23「ガチョウの行方」

この場面の解説

ガチョウを食べてしまったと聞いてベイカーは驚くが、ホームズが同じ重さの新鮮なガチョウを代わりに差し出すと、ほっとして承知する。元の鳥の羽や脚、餌袋も残してあると言われても、ベイカーは笑って断り、新しい鳥だけをもらうと言う。ホームズはワトソンのほうを見て、軽く肩をすくめる。

表現・文法のポイント

had we not done so
if we had not done so の if を省き、had を前に出した倒置の仮定法過去完了で、「もしそうしなかったら」。改まった響きになる。ホームズは、鳥を食べたのは無駄にしないためだったと、もっともらしい理由を添えている。
will answer your purpose equally well
answer one's purpose で「目的にかなう・用が足りる」。answer は「答える」だけでなく、「(必要や目的を)満たす」の意味でも使う。equally well は「同じくらいよく」。代わりの鳥でも十分役に立つでしょう、と丁寧に持ちかけている。
disjecta membra
ラテン語で「散らばった手足」。古代ローマの詩人ホラティウスの句に由来し、英語ではばらばらになった断片を指す言い回しとして使われる。ベイカーは食べられたガチョウの羽や脚を、学のある人らしくおおげさなラテン語で呼んでいる。
my late acquaintance
late は名詞の前に置くと「故〜・今は亡き」。acquaintance は「知人」。食べられてしまったガチョウを、亡くなった知り合いのように呼ぶ冗談だ。前の disjecta membra(ばらばらの亡骸)と合わせて、もったいぶったユーモアになっている。

背景・時代

サイドボード(sideboard)
食堂に置く背の低い飾り棚。上の天板に料理や食器を並べておき、食事のときに取り分ける台としても使われた。ここでは、代わりのガチョウがその上に用意されている。

全文の対訳

"To eat it!" Our visitor half rose from his chair in his excitement.

「食べてしまわれたと!」客は興奮のあまり、椅子から腰を半ば浮かせた。

"Yes, it would have been of no use to anyone had we not done so. But I presume that this other goose upon the sideboard, which is about the same weight and perfectly fresh, will answer your purpose equally well?"

「ええ、そうしなければ、誰の役にも立たなかったでしょうからね。ですが、サイドボードの上にあるこちらの別のガチョウなら、重さもほぼ同じで申し分なく新鮮ですから、同じくらいお役に立つと思いますが、いかがです?」

"Oh, certainly, certainly," answered Mr. Baker with a sigh of relief.

「ええ、もちろん、もちろんですとも」とベイカー氏はほっと息をついて答えた。

"Of course, we still have the feathers, legs, crop, and so on of your own bird, so if you wish—"

「もちろん、あなたご自身の鳥の羽や脚、餌袋なども、まだ取ってありますから、もしお望みなら——」

The man burst into a hearty laugh. "They might be useful to me as relics of my adventure," said he, "but beyond that I can hardly see what use the disjecta membra of my late acquaintance are going to be to me. No, sir, I think that, with your permission, I will confine my attentions to the excellent bird which I perceive upon the sideboard."

男は急に、腹の底から笑い出した。「私の冒険の記念品としてなら、役に立つかもしれませんな」と彼は言った。「しかしそれ以上となると、亡き知人のばらばらの亡骸が私にとって何の役に立つのか、とんと見当がつきませんな。いや、よろしければ、サイドボードの上に見えている、あの見事な鳥のほうだけを頂戴するとしましょう」

Sherlock Holmes glanced sharply across at me with a slight shrug of his shoulders.

シャーロック・ホームズは軽く肩をすくめながら、鋭い目つきで私のほうをちらりと見た。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • sideboard(サイドボード)… サイドボード(料理や食器を置く低い飾り棚)難
  • relics(レリックス)… 記念品・遺品・遺物(relic の複数形)難
  • disjecta(ディスジェクタ)… (ラテン語。disjecta membra で)散らばった断片・ばらばらの手足難
  • membra(メンブラ)… (ラテン語。disjecta membra で)ばらばらになった手足・断片難
  • confine(コンファイン)… 閉じこもる・閉じ込める・制限する難
  • acquaintance(アクウェインタンス)… 知り合うこと(make the acquaintance of で「〜と知り合う」)・知人
  • excitement(イクサイトメント)… 興奮・わくわくする気持ち
  • permission(パーミッション)… 許可

次の場面:ガチョウの出どころ Where the Goose Came From

ガチョウの代わりを受け取って満足したヘンリー・ベイカーは、帽子と鳥を手に帰り支度をする。ホームズは帰りぎわの客を引き止め、失われたほうのガチョウをどこで手に入れたのかと、何気ない調子で尋ねる。家禽に目が利く者として気になる、というのがその口実だ。