Scene 34 · Notes

解説 場面 34「賭けの結末」

この場面の解説

ホームズはひどく悔しそうな顔で 1 ポンド金貨を売り台に投げ出し、その場を離れる。だが少し先の街灯の下で、彼は声を立てずに心から笑う。賭けを持ちかけたからこそ商人から詳しい話を引き出せたのだと明かし、オークショット夫人を今夜訪ねるか明日にするかを考えるうちに、話が途中で途切れる。

表現・文法のポイント

whose disgust is too deep for words
too 〜 for words は「言葉にできないほど〜」。disgust は「嫌気、うんざりした気持ち」。whose は関係代名詞の所有格で、a man whose disgust 〜 は「嫌気が〜であるような男」。ホームズが負けて腹を立てている男を、わざと演じているところだ。
you can always draw him by a bet
draw はここで「(人を)誘い出す、(話を)引き出す」。by a bet は「賭けによって」。ああいう男は賭けを持ちかければ必ず乗ってきてしゃべる、という意味。前の draw(金貨を取り出す)や、あとの was drawn from him(彼から引き出された)とも響き合っている。
he was doing me on a wager
do はくだけた英語で「だます、一杯食わせる」の意味になる。wager は bet と同じ「賭け」で、少し改まった語。商人は賭けで私をまんまと負かしているつもりだった、ということ。実はホームズのほうが一枚上手だったわけだ。
I should—
ダッシュで文が途中で切れている。should のあとに続くはずだった言葉は、次の場面の騒ぎにさえぎられて語られない。英語ではこのように、話が中断されたことをダッシュ(—)で示し、引用符を閉じる。

背景・時代

『ピンク・アン』(the 'Pink 'un')
淡いピンク色の紙に刷られた競馬・スポーツ新聞の愛称。'un は one のなまりで、「ピンクのやつ」くらいの意味。これをポケットに入れているのは賭け事好きのしるしだと、ホームズは見抜いていた。

全文の対訳

Sherlock Holmes looked deeply chagrined. He drew a sovereign from his pocket and threw it down upon the slab, turning away with the air of a man whose disgust is too deep for words. A few yards off he stopped under a lamp-post and laughed in the hearty, noiseless fashion which was peculiar to him.

シャーロック・ホームズは、ひどく悔しそうな顔をした。彼はポケットから 1 ポンド金貨を取り出して売り台の上に放り出し、言葉も出ないほど嫌気がさした男といった様子で背を向けた。数ヤード離れると、彼は街灯の下で立ち止まり、彼独特の、声を立てずに腹の底から笑うやり方で笑った。

"When you see a man with whiskers of that cut and the 'Pink 'un' protruding out of his pocket, you can always draw him by a bet," said he. "I daresay that if I had put £ 100 down in front of him, that man would not have given me such complete information as was drawn from him by the idea that he was doing me on a wager. Well, Watson, we are, I fancy, nearing the end of our quest, and the only point which remains to be determined is whether we should go on to this Mrs. Oakshott to-night, or whether we should reserve it for to-morrow. It is clear from what that surly fellow said that there are others besides ourselves who are anxious about the matter, and I should—"

「ああいう形に頬ひげを刈り込んで、ポケットから『ピンク・アン』をのぞかせている男を見たら、賭けを持ちかければいつでも話を引き出せるのさ」と彼は言った。「たとえ 100 ポンドを目の前に積んでみせたところで、あの男は、賭けで私を負かしているつもりにさせて引き出したほど、すっかり話してはくれなかっただろうね。さて、ワトソン、私たちの探索もどうやら終わりに近づいているようだ。あと決めることといえば、このオークショット夫人のところへ今夜のうちに行くか、それとも明日に取っておくか、それだけだ。あの無愛想な男の口ぶりからすると、私たちのほかにもこの件を気にかけている者がいるのは明らかだ。だから私としては――」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • chagrined(シャグリンド)… 悔しそうな・残念がった難
  • sovereign(ソヴリン)… ソヴリン金貨(1ポンド)・君主・主権のある難
  • slab(スラブ)… 売り台(品物を並べる平らな台)・厚い板・石板難
  • noiseless(ノイズレス)… 声を立てない・音のしない難
  • un(アン)… やつ・もの(one のなまり。Pink 'un で「ピンクのやつ」)難
  • protruding(プロトルーディング)… 突き出している難
  • daresay(デアセイ)… たぶん〜だろうと思う(I daresay の形で)難
  • wager(ウェイジャー)… 賭け・賭ける難
  • surly(サーリー)… 無愛想な・不機嫌な難

次の場面:屋台の騒ぎ A Row at the Stall

賭けに負けたふりをして屋台を離れたホームズは、街灯の下で声を立てずに笑う。賭けを持ちかけたからこそ、商人から仕入れ先を聞き出せたのだ。残るは、オークショット夫人を今夜訪ねるか明日にするか。ほかにもこの件を気にしている者がいるようだと言いかけたところで、話がさえぎられる。