Scene 38 · Notes

解説 場面 38「本当の名前」

この場面の解説

小男は初めジョン・ロビンソンと名乗るが、ホームズに本当の名前を求められ、顔を赤らめてジェイムズ・ライダーだと明かす。ホームズは、彼がホテル・コスモポリタンの客室係主任だと言い当て、知りたいことはすべて話そうと、馬車に乗るよう促す。

表現・文法のポイント

with a sidelong glance
sidelong は「横からの・横目の」。a sidelong glance で「横目でちらりと見ること」。相手を正面から見ずに様子をうかがう、後ろめたさや警戒のしぐさで、偽の名前を名乗る場面にふさわしい描き方になっている。
It is always awkward doing business with an alias.
形式主語 It が、後ろの動名詞句 doing business with an alias を指す。awkward は「やりにくい・気まずい」、alias は「偽名・別名」。偽名だと見抜いたことを、とがめずに、皮肉まじりの丁寧さで伝えている。
Precisely so.
precisely は「正確に・まさに」。Precisely so で「まさにそのとおり」と強く受けとめる言い方。ホームズは相手の本名を初めから知っていたかのように応じ、続けて勤め先まで言い当てて、話の主導権を握っている。

全文の対訳

The man hesitated for an instant. "My name is John Robinson," he answered with a sidelong glance.

男は一瞬ためらった。「ジョン・ロビンソンといいます」と、彼は横目でちらりとこちらを見ながら答えた。

"No, no; the real name," said Holmes sweetly. "It is always awkward doing business with an alias."

「いやいや、本当の名前をどうぞ」とホームズは穏やかに言った。「偽名の相手と取り引きするのは、いつだってやりにくいものですからね」

A flush sprang to the white cheeks of the stranger. "Well then," said he, "my real name is James Ryder."

見知らぬ男の青白い頬に、さっと赤みがさした。「それでは」と彼は言った。「本当の名前はジェイムズ・ライダーです」

"Precisely so. Head attendant at the Hotel Cosmopolitan. Pray step into the cab, and I shall soon be able to tell you everything which you would wish to know."

「そのとおり。ホテル・コスモポリタンの客室係主任ですね。さあ、馬車にお乗りなさい。お知りになりたいことは、じきに何もかもお話しできるでしょう」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • sidelong(サイドロング)… 横からの・横目の難
  • alias(エイリアス)… 偽名・別名難
  • hesitated(ヘズィテイティッド)… ためらった・迷った
  • precisely(プリサイスリー)… その通り・正確に
  • attendant(アテンダント)… 係・世話係(head attendant で「客室係主任」)・付き添い
  • instant(インスタント)… 一瞬・即時の
  • sweetly(スウィートリー)… 穏やかに・愛想よく・甘く
  • awkward(オークワード)… 困った・具合の悪い・ぎこちない

次の場面:ベイカー街に戻って Back at Baker Street

本当の名前を明かした小男は、ホームズにうながされて四輪馬車に乗り込む。ホームズとワトソンも続き、三人を乗せた馬車は、凍える夜の街をベイカー街へ向かう。車中では誰も口をきかない。小男は落ち着かない様子で、二人の顔をかわるがわる見つめている。