Scene 39 · Notes

解説 場面 39「ベイカー街に戻って」

この場面の解説

ライダーは期待と不安の入りまじった目でホームズとワトソンを見比べ、黙ったまま馬車でベイカー街へ向かう。居間に着くと、ホームズは彼を籐椅子に座らせ、彼が知りたいのはガチョウの群れではなく、尾に黒い縞のある白いガチョウ一羽の行方だろうと言い当てる。

表現・文法のポイント

on the verge of a windfall or of a catastrophe
on the verge of 〜 は「〜の寸前で・〜の瀬戸際で」。windfall はもとは「風で落ちた果実」で、そこから「思いがけない幸運」。catastrophe は「破滅・大惨事」。正反対の二つを並べ、どちらに転ぶか分からない男の心の揺れを表している。
the claspings and unclaspings of his hands
clasp は「(両手を)握り合わせる」。その動名詞を複数形にして名詞として使い、「握ったりほどいたりを何度も繰り返すこと」を表している。un- をつけた反対の語と対にした、文語的で印象に残る描き方だ。
Here we are!
目的地に着いたときの決まり文句で「さあ、着いた」。探していた物が見つかったときの「ほら、あった」にも使う。ここではホームズが部屋に入りながら、張りつめた客の気持ちをほぐすように、明るく言っている。
Or rather, I fancy, of that goose.
or rather は「いや、むしろ」と言い直す表現。I fancy は I think のやや古風な言い方で、挿入句として文の中に置かれている。前の文の what became of those geese を受け、of that goose だけを言う省略の形だ。

背景・時代

籐椅子(basket-chair)
柳や籐の枝を編んで作った軽い椅子。かごのような作りなので basket-chair と呼ばれる。持ち運びやすく、当時の家庭の居間でよく使われていた。

全文の対訳

The little man stood glancing from one to the other of us with half-frightened, half-hopeful eyes, as one who is not sure whether he is on the verge of a windfall or of a catastrophe. Then he stepped into the cab, and in half an hour we were back in the sitting-room at Baker Street. Nothing had been said during our drive, but the high, thin breathing of our new companion, and the claspings and unclaspings of his hands, spoke of the nervous tension within him.

小男は、思いがけない幸運の一歩手前にいるのか、それとも破滅の一歩手前にいるのか分からない人のように、半ばおびえ、半ば期待する目で、私たちの顔をかわるがわる見ていた。それから彼は馬車に乗り込み、三十分後には、私たちはベイカー街の居間に戻っていた。馬車の中では誰も口をきかなかったが、新しい連れの高く細い息づかいや、手を握ったりほどいたりするしぐさが、彼の内にある張りつめた緊張を物語っていた。

"Here we are!" said Holmes cheerily as we filed into the room. "The fire looks very seasonable in this weather. You look cold, Mr. Ryder. Pray take the basket-chair. I will just put on my slippers before we settle this little matter of yours. Now, then! You want to know what became of those geese?"

「さあ、着きましたよ!」私たちが列になって部屋に入ると、ホームズは陽気に言った。「この寒さには、暖炉の火がいかにもありがたいですね。寒そうですね、ライダーさん。どうぞ、籐椅子におかけなさい。あなたのこのちょっとした件を片づける前に、スリッパにはき替えさせてもらいますよ。さて、それでは!あのガチョウたちがどうなったか、知りたいのでしょう?」

"Yes, sir."

「はい、旦那」

"Or rather, I fancy, of that goose. It was one bird, I imagine in which you were interested—white, with a black bar across the tail."

「いや、むしろ、あの一羽のガチョウのことだと思いますがね。あなたが気にかけていたのは、ただ一羽の鳥だったはずです——白くて、尾に黒い縞が一本入った鳥です」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • windfall(ウィンドフォール)… 思いがけない幸運・たなぼた・風で落ちた果実難
  • claspings(クラースピングズ)… (手を)握りしめること(clasping の複数形)難
  • unclaspings(アンクラースピングズ)… (握った手を)ほどくこと(unclasping の複数形)難
  • cheerily(チアリリー)… 陽気に・明るく難
  • seasonable(スィーズナブル)… 季節にふさわしい・時宜を得た難
  • basket-chair(バースケットチェア)… 籐椅子・枝編みの椅子難
  • half-frightened(ハーフフライトゥンド)… 半ばおびえた
  • half-hopeful(ハーフホウプフル)… 半ば期待している

次の場面:ガチョウの行き先 Where the Goose Went

ベイカー街の居間で、ホームズは小男を籐椅子に座らせ、自分はスリッパにはき替える。小男が知りたいのはガチョウの群れではなく、尾に黒い縞のある白いガチョウ一羽の行方だろうと、ホームズは言い当てる。小男は身を震わせ、その鳥の行き先を聞こうと答えを待つ。