Scene 45 · Notes

解説 場面 45「姉の家へ」

この場面の解説

ライダーの告白が始まる。ホーナーが逮捕されると、彼は身体検査を恐れて石を持ったままホテルを抜け出し、ブリクストン・ロードで市場向けの家禽を育てている姉の家へ向かった。道中ずっと誰もが警官に見え、寒い夜なのに汗が止まらなかった彼は、姉には盗難事件で動転しているとごまかし、裏庭でパイプを吸いながら次の手を考える。

表現・文法のポイント

passed his tongue over his parched lips
pass A over B は「A を B の上に滑らせる」。乾いた唇を舌でなめる、という緊張したしぐさだ。parched は「からからに乾いた」。話し出す前の、のどの渇きと恐れが一つの動作で表されている。
as if on some commission
as if (I were) on some commission の省略で「何かの用事で出かけるかのように」。commission はここでは「頼まれた用向き・使い」。本当は逃げ出すのに、仕事の使いを装って出たという言い訳の響きがある。
I made for my sister's house
make for 〜 は「〜へ向かう、〜を目指して進む」。go to よりも、ある場所をめざしてまっすぐ急ぐ感じが強い。逃げ場を求めて姉の家へ急いだ様子が伝わる。
for all that it was a cold night
for all that 〜 は「〜にもかかわらず」という古めかしい言い方で、though とほぼ同じ。寒い夜だったのに汗が流れていた、と恐怖の大きさを対比で強めている。

背景・時代

警官と刑事(policeman / detective)
当時のロンドンの警察には、制服を着て通りを巡回する巡査と、私服で捜査にあたる刑事がいた。ライダーには、すれ違う男が制服でも私服でも、みな自分を追う者に見えたのだ。

全文の対訳

Ryder passed his tongue over his parched lips. "I will tell you it just as it happened, sir," said he. "When Horner had been arrested, it seemed to me that it would be best for me to get away with the stone at once, for I did not know at what moment the police might not take it into their heads to search me and my room. There was no place about the hotel where it would be safe. I went out, as if on some commission, and I made for my sister's house. She had married a man named Oakshott, and lived in Brixton Road, where she fattened fowls for the market. All the way there every man I met seemed to me to be a policeman or a detective; and, for all that it was a cold night, the sweat was pouring down my face before I came to the Brixton Road. My sister asked me what was the matter, and why I was so pale; but I told her that I had been upset by the jewel robbery at the hotel. Then I went into the back yard and smoked a pipe and wondered what it would be best to do.

ライダーは乾ききった唇を舌でなめた。「起こったとおりにお話しします、旦那」と彼は言った。「ホーナーが逮捕されると、私はすぐに石を持って逃げ出すのがいちばんだと思いました。警察がいつ私や私の部屋を調べようと思い立つか、分かったものではなかったからです。ホテルの中には、それを安全に隠しておける場所などありませんでした。私は何かの用事で出かけるふりをして、姉の家へ向かいました。姉はオークショットという男と結婚してブリクストン・ロードに住み、そこで市場に出す家禽を太らせていました。そこへ行く道すがら、出会う男がみな警官か刑事に見えました。寒い夜だったというのに、ブリクストン・ロードに着く前から顔に汗が流れ落ちていました。姉はどうしたのか、なぜそんなに顔色が悪いのかと尋ねましたが、私はホテルの宝石盗難事件で動転しているのだと答えておきました。それから裏庭に出てパイプを吸い、どうするのがいちばんよいかと考えをめぐらせました。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • parched(パーチト)… からからに乾いた・干からびた難
  • fattened(ファットゥンド)… 太らせた(fatten の過去形・過去分詞)難
  • fowls(ファウルズ)… 鳥・家禽(fowl の複数形。ニワトリやガチョウなど)難
  • commission(コミッション)… (頼まれた)用事・使い・依頼・委員会・手数料
  • detective(ディテクティヴ)… 探偵・刑事
  • arrested(アレスティッド)… 逮捕された(arrest の過去分詞)
  • pouring(ポーリング)… (汗・水などが)流れ落ちている・注いでいる・(雨が)激しく降っている
  • robbery(ロバリー)… 強盗(事件)

次の場面:キルバーンの友人 A Friend in Kilburn

小男の話は続く。数日前のこと、彼はブリクストン・ロードに住む姉の家にいた。裏庭に出てパイプをくわえ、これからどうするのがいちばんよいかと、ひとり考えをめぐらせている。そのとき彼の頭に、ある古い知り合いの顔が浮かぶ。