Scene 52 · Notes

解説 場面 52「事件のあとで」

この場面の解説

ホームズは、警察の手落ちを補うのは自分の役目ではないと言う。ライダーが証言しなければホーナーへの訴えは成り立たず、今あの男を牢に送れば一生前科者にしてしまうが、見逃せば魂を救えるかもしれない。許しの季節でもあり、奇妙な事件を解いたこと自体が報酬だと語ったホームズは、呼び鈴を鳴らして、また鳥が主役になる「調査」を始めようと言う。

表現・文法のポイント

I am not retained by the police
retain は「(弁護士などを)報酬を払って雇っておく」。be retained by the police で「警察に雇われている」。自分は警察の雇われ人ではなく、その落ち度を埋める義務はない、というホームズの立場を示している。
commuting a felony
commute は「(刑を)軽くする」で、ここでは重罪(felony)を見逃して罪を軽くしてしまう、という意味。進行形 am commuting で、今まさにそうしている自覚を表している。法律用語としては compounding a felony が正しく、ここは原文のまま。
a gaol-bird
gaol は jail の古い英国式の綴りで、読みは同じ。gaol-bird は「牢屋の鳥」から「前科者、刑務所の常連」。ガチョウの事件の締めくくりに bird を含む語を使った、ホームズらしい言葉の遊びでもある。
If you will have the goodness to touch the bell
have the goodness to 〜 は「親切にも〜する」。if you will 〜 は「〜していただけるなら」という丁寧な依頼の型で、全体で「すまないが呼び鈴を鳴らしてくれたまえ」。古風でもったいぶった頼み方だ。

背景・時代

重罪(felony)
当時のイギリスの法律では、犯罪を重い重罪(felony)と比較的軽い軽罪(misdemeanour)に分けていた。高価な宝石の窃盗は重罪にあたる。ホームズは、その犯人と知りながら警察に引き渡さずに帰したのだ。
陶製のパイプ(clay pipe)
粘土を焼いて作った安いパイプで、柄が長く、壊れやすい。ホームズは、くつろいで話をするときにこのパイプを手に取る。

全文の対訳

"After all, Watson," said Holmes, reaching up his hand for his clay pipe, "I am not retained by the police to supply their deficiencies. If Horner were in danger it would be another thing; but this fellow will not appear against him, and the case must collapse. I suppose that I am commuting a felony, but it is just possible that I am saving a soul. This fellow will not go wrong again; he is too terribly frightened. Send him to gaol now, and you make him a gaol-bird for life. Besides, it is the season of forgiveness. Chance has put in our way a most singular and whimsical problem, and its solution is its own reward. If you will have the goodness to touch the bell, Doctor, we will begin another investigation, in which, also a bird will be the chief feature."

「結局のところ、ワトソン」と、ホームズは陶製のパイプに手を伸ばしながら言った。「私は警察の手落ちを埋め合わせるために雇われているわけではないのだよ。ホーナーが危うい立場にあるというなら話は別だ。だが、この男がホーナーに不利な証言をすることはないのだから、訴えは成り立たなくなるはずだ。私は重罪を見逃しているのだろう。だが、ひとりの人間の魂を救っているということも、ありえなくはない。あの男はもう二度と道を誤るまい。すっかり震え上がっているからね。今あの男を牢獄に送れば、一生、牢獄を出たり入ったりする人間にしてしまう。それに、今は許しの季節だ。偶然が、私たちの前に実に奇妙で風変わりな問題を運んできてくれた。それを解いたこと自体が、何よりの報酬なのだ。すまないが呼び鈴を鳴らしてくれたまえ、先生。もう一つの調査を始めるとしよう。そちらでもやはり、鳥が主役になるはずだ」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • deficiencies(ディフィシェンスィーズ)… 手落ち・不足・欠陥(deficiency の複数形)難
  • commuting(コミューティング)… (罪・刑を)軽くしている・見逃している・通勤している難
  • felony(フェロニー)… 重罪難
  • gaol(ジェイル)… 牢獄・刑務所(jail の古い英国式の綴り)難
  • gaol-bird(ジェイルバード)… 前科者・牢獄の常連(jailbird の古い綴り)難
  • whimsical(ウィムズィカル)… 気まぐれな・風変わりな難
  • investigation(インヴェスティゲイション)… 調査・捜査
  • forgiveness(フォギヴネス)… 許し・容赦

収録分はここまでです

続きの場面は順次追加します。ライブラリから他の話も読めます。