Scene 35 · Notes

解説 場面 35「教会へ急げ」

この場面の解説

紳士の馬車が去ると、今度は小型の馬車が着き、美しい女性が乗り込んで聖モニカ教会へ急げと命じる。ホームズも辻馬車に飛び乗り、二人の後を追う。

表現・文法のポイント

whether I should not do well to follow them
do well to ~は「~するのが賢明だ」。should not を含む疑問の形で「追ったほうがよいのではないか」と自問している。否定を使って肯定寄りの考えを表す、古風で遠回しな言い方だ。
his tie under his ear
ネクタイが耳の下までずれている、つまり大慌てで身支度した証拠。上着のボタンが半分しか留まっていないことと合わせ、急な呼び出しだったことをホームズは服装の乱れから読み取っている。
quite too good to lose
too good to lose は「逃すにはもったいなさすぎる」。too ~ to ... の構文で、quite が強調。見逃す手はない絶好の機会だ、という興奮が伝わる。

背景・時代

ランドー馬車
landau は四輪で、幌を前後に開閉できる上等な馬車。自家用の馬車を持つのは裕福さのしるしで、アイリーンが御者付きの馬車を使っていることから、その暮らしぶりがうかがえる。
半ソヴリン
sovereign は1ポンドの金貨で、半ソヴリンは10シリング。御者へのご褒美としてはかなり気前のよい額で、彼女がどれほど急いでいたかがわかる。

全文の対訳

"Away they went, and I was just wondering whether I should not do well to follow them when up the lane came a neat little landau, the coachman with his coat only half-buttoned, and his tie under his ear, while all the tags of his harness were sticking out of the buckles. It hadn't pulled up before she shot out of the hall door and into it. I only caught a glimpse of her at the moment, but she was a lovely woman, with a face that a man might die for.

「馬車は走り去った。後を追ったほうがいいかと思案していると、小路の向こうから小ぎれいな小型の四輪馬車がやって来た。御者は上着のボタンを半分しか留めておらず、ネクタイは耳の下までずれ、馬具の留め革はどれもバックルから飛び出している。馬車が止まりきらないうちに、彼女が玄関から飛び出してきて乗り込んだ。そのときはちらりと見えただけだが、男が命を捧げてもいいと思うほどの顔立ちの、美しい女性だった。

"'The Church of St. Monica, John,' she cried, 'and half a sovereign if you reach it in twenty minutes.'

「『ジョン、聖モニカ教会へ』と彼女は叫んだ。『二十分で着いたら半ソヴリンあげます』

"This was quite too good to lose, Watson. I was just balancing whether I should run for it, or whether I should perch behind her landau when a cab came through the street. The driver looked twice at such a shabby fare, but I jumped in before he could object. 'The Church of St. Monica,' said I, 'and half a sovereign if you reach it in twenty minutes.' It was twenty-five minutes to twelve, and of course it was clear enough what was in the wind.

「これを見逃す手はないよ、ワトソン。走って追いかけるか、彼女の馬車の後ろに飛び乗るか迷っていると、ちょうど通りを辻馬車がやって来た。御者はこんなみすぼらしい客をじろじろと見直したが、文句を言われる前に私は飛び乗った。『聖モニカ教会へ』と私は言った。『二十分で着いたら半ソヴリンやろう』十二時二十五分前だった。もちろん、何が起ころうとしているのかは明らかだった。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • landau(ランドー)… ランドー馬車(幌付き四輪馬車)難
  • sovereign(ソヴリン)… ソヴリン金貨(1ポンド)・君主・主権のある難
  • half-buttoned(ハーフバトンド)… ボタンを半分しか留めていない
  • balancing(バランスィング)… (あれこれ)比べて考えること・釣り合いを取ること
  • coachman(コウチマン)… 御者
  • harness(ハーネス)… 馬具。go into harness で「仕事に就く」
  • buckles(バックルズ)… 留め金・バックル(複数)
  • glimpse(グリンプス)… ちらりと見えること・一目

次の場面:教会へ At the Church

馬丁に変装したホームズの語りは続く。辻馬車を急がせて聖モニカ教会に着くと、二台の馬車はすでに入口に止まっている。中では二人が白い法衣の牧師と祭壇の前で何やら言い合っている。暇人を装って側廊を進むホームズに、突然ゴドフリー・ノートンが駆け寄ってくる。