Scene 57 · Notes

解説 場面 57「結婚の知らせ」

この場面の解説

馬車の中でホームズは、アイリーン・アドラーが昨日ノートンという弁護士と結婚したと告げる。愛せるはずがないと言う国王に、彼女が夫を愛していればむしろ陛下には好都合なのだと説く。

表現・文法のポイント

But to whom?
whom は前置詞 to の目的語。「人と結婚する」は be married to 人 なので、相手を尋ねると to whom になる。口語なら Who to? でも通じるが、ここは国王らしい改まった言い方である。
I am in hopes that she does.
be in hopes that … は「…であることを望んでいる」という古風な言い方で、今なら I hope that … でよい。文末の does は loves him の代わりで、直前の国王の言葉 could not love him を受けている。
spare your Majesty all fear of future annoyance
spare A B で「A に B(いやなこと)を味わわせずに済ませる」という二重目的語の形。annoyance は「わずらわしさ」で、ここでは将来アイリーンが写真で国王を困らせることを指す。

背景・時代

ノートンという弁護士
物語の前半で、ノートンはインナー・テンプル所属だとされていた。インナー・テンプルは法廷弁護士(バリスター)が属する法曹院の一つで、ここでは単に lawyer とひとまとめに呼んでいる。
ホームズの理屈
彼女が夫を愛しているなら、昔の恋人である国王を困らせる理由はなくなる、という筋道である。国王の未練を気にせず、依頼人の利益だけを冷静に述べるところにホームズらしさがある。

全文の対訳

"Irene Adler is married," remarked Holmes.

「アイリーン・アドラーは結婚しましたよ」とホームズが言った。

"Married! When?"

「結婚しただと!いつだ」

"Yesterday."

「昨日です」

"But to whom?"

「だが、相手は誰なのだ」

"To an English lawyer named Norton."

「ノートンという名の、イギリス人の弁護士です」

"But she could not love him."

「しかし、あの女がその男を愛せるはずがない」

"I am in hopes that she does."

「私は、愛していてほしいと願っています」

"And why in hopes?"

「なぜそう願うのだ」

"Because it would spare your Majesty all fear of future annoyance. If the lady loves her husband, she does not love your Majesty. If she does not love your Majesty, there is no reason why she should interfere with your Majesty's plan."

「そうであれば、陛下はこの先わずらわされる心配が一切なくなるからです。あの方が夫を愛しているなら、陛下を愛してはいないことになります。陛下を愛していないなら、陛下のご計画を邪魔する理由もないわけです」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • annoyance(アノイアンス)… わずらわしさ・迷惑・いらだち
  • interfere(インタフィア)… 口出しする・干渉する・邪魔をする
  • majesty's(マジェスティズ)… 陛下の(your Majesty's で「陛下の」)
  • remarked(リマークト)… 言った・述べた
  • majesty(マジェスティ)… 陛下(your Majesty で呼びかけ)・威厳
  • lawyer(ローヤー)… 弁護士
  • spare(スペア)… 痩せた
  • whom(フーム)… 誰を・誰に(who の目的格)

次の場面:出迎えた老女 The Woman on the Steps

ホームズの理屈を認めながらも、国王は、彼女が自分と同じ身分であればどれほどの王妃になったことかと嘆き、ふさぎ込んで黙り込む。やがて馬車はサーペンタイン通りのブライオニー荘に着く。玄関の扉は開いていて、石段の上では年配の女が待ち構えたように一行を迎え、ホームズの名を呼ぶ。