Scene 29 · Notes

解説 場面 29「残る疑問」

この場面の解説

ワトソンは、死に際の言葉は犯行を説明する試みではないかと考える。灰色の布が本当にあったなら犯人が至近距離へ戻ったことになり、謎は深いが、ホームズへの信頼から希望を保つ。

表現・文法のポイント

cudgelled my brains
直訳では頭脳を棒で打つという強い言い方だが、考えを絞り出そうと懸命に頭を働かせることを表す。ワトソンは最期の言葉の意味を理解しようとしており、実際に頭を殴っているのではない。
not a dozen paces off
not a dozenは、一ダース、つまり十二にも達しないという距離の短さを強調する。offは離れてという意味。息子がすぐ近くで背を向けている間に、犯人が戻ったのだとした場合の大胆さをワトソンが考えている。

全文の対訳

A man dying from a sudden blow does not commonly become delirious. No, it was more likely to be an attempt to explain how he met his fate. But what could it indicate? I cudgelled my brains to find some possible explanation. And then the incident of the grey cloth seen by young McCarthy. If that were true the murderer must have dropped some part of his dress, presumably his overcoat, in his flight, and must have had the hardihood to return and to carry it away at the instant when the son was kneeling with his back turned not a dozen paces off. What a tissue of mysteries and improbabilities the whole thing was! I did not wonder at Lestrade's opinion, and yet I had so much faith in Sherlock Holmes' insight that I could not lose hope as long as every fresh fact seemed to strengthen his conviction of young McCarthy's innocence.

突然の一撃で死んでいく人が、普通、うわごとを言うようになることはない。いや、自分がどうしてそんな最期を迎えたか、説明しようとした可能性のほうが高かった。だが、何を示そうとしたのだろう。私は何かありうる説明を見つけようと、懸命に頭を絞った。それに、若いマッカーシーが見たという灰色の布の件もあった。もしそれが本当なら、殺人犯は逃げる途中に衣服の一部、おそらく外套を落とし、息子が十二歩も離れていない所で背を向けてひざまずいている、そのまさに瞬間に、戻って持ち去るほどの大胆さを持っていたに違いなかった。この出来事全体は、なんという謎とありそうもない話の絡まりだったことだろう。レストレードの意見も不思議ではなかった。だが、それでも私は、シャーロック・ホームズの洞察力を深く信じていたので、新しい事実の一つ一つが若いマッカーシーの無実に対する彼の確信を強めるように見える限り、希望を失うことはできなかった。

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • delirious(デリリアス)… うわごとを言う・錯乱した難
  • cudgelled(カジャルド)… (cudgelled my brainsで)懸命に頭を絞った・棒で打った難
  • hardihood(ハーディフッド)… 大胆さ・向こう見ずな勇気難
  • improbabilities(インプロバビリティーズ)… ありそうもない事柄(複数)難
  • conviction(コンヴィクション)… 確信・有罪判決難
  • explanation(エクスプラネイション)… 説明
  • presumably(プリジューマブリー)… おそらく・たぶん
  • strengthen(ストレングスン)… 強化する・強める

次の場面:夜の帰着 A Late Return

夜遅く、ホームズは一人で宿へ戻ってくる。腰を下ろすと、まず気圧計に目を向け、翌日の現場調査について話す。ワトソンが知りたいのは、今夜会ってきた若いマッカーシーの様子だ。面会では何が分かったのか、二人の会話が続いていく。