Scene 58 · Notes

解説 場面 58「終わり近く」

この場面の解説

木陰で父子の会話を聞いたターナーは、自分と娘がマッカーシーに支配されることに耐えられず、彼を打ち倒したと告白する。森へ隠れたものの、逃走中に落としたマントを取りに戻ったことも説明する。

表現・文法のポイント

Deeply as I have sinned
副詞Deeplyをasより前に置いた譲歩の言い方で、「深く罪を犯してはいても」と読む。asを単純な理由として扱わない。ターナーは罪を認めながら、その償いに苦しみ続けた人生だったと説明している。
more than I could suffer
自分が耐えられる程度を越えていた、という比較の表現。sufferはここで苦痛を受けるだけでなく、耐える、我慢することを指す。自分と同じ束縛に娘まで巻き込まれるのは耐えられなかった、という説明である。

全文の対訳

"When I went down there I found him talking with his son, so I smoked a cigar and waited behind a tree until he should be alone. But as I listened to his talk all that was black and bitter in me seemed to come uppermost. He was urging his son to marry my daughter with as little regard for what she might think as if she were a slut from off the streets. It drove me mad to think that I and all that I held most dear should be in the power of such a man as this. Could I not snap the bond? I was already a dying and a desperate man. Though clear of mind and fairly strong of limb, I knew that my own fate was sealed. But my memory and my girl! Both could be saved if I could but silence that foul tongue. I did it, Mr. Holmes. I would do it again. Deeply as I have sinned, I have led a life of martyrdom to atone for it. But that my girl should be entangled in the same meshes which held me was more than I could suffer. I struck him down with no more compunction than if he had been some foul and venomous beast. His cry brought back his son; but I had gained the cover of the wood, though I was forced to go back to fetch the cloak which I had dropped in my flight. That is the true story, gentlemen, of all that occurred."

「そこへ下りていくと、あの男は息子と話していました。そこで私は葉巻を吸い、男が一人になるまで木の陰で待ちました。しかし、その話を聞くうちに、私の中の暗く苦々しい思いが、何もかもこみ上げてくるようでした。あの男は、まるで通りのふしだらな女を扱うかのように、娘の気持ちを少しも顧みず、私の娘と結婚しろと息子に迫っていたのです。私も、何より大切なものすべても、こんな男に支配されているのだと思うと、気が狂いそうでした。この鎖を断ち切れないものでしょうか。私はすでに、死を目前にし、追い詰められていたのです。頭ははっきりし、手足もかなりしっかりしていましたが、自分の運命が決まっていることは分かっていました。しかし、死後の名誉と娘はどうなるのでしょう。あの汚らわしい舌さえ黙らせられれば、どちらも救えるはずでした。私がやったのです、ホームズさん。もう一度でも、同じことをするでしょう。深い罪を犯してはいても、その償いのため、苦難に満ちた一生を送ってきました。しかし、私を捕らえてきたのと同じ網に、娘まで絡め取られることだけは、耐えられなかったのです。汚らわしい毒を持つ獣でも倒すかのように、何の良心の痛みも覚えず、あの男を打ち倒しました。悲鳴を聞いて息子が戻ってきましたが、私はすでに森へ隠れていました。ただ、逃げる途中で落としたマントを取りに、戻らざるを得ませんでした。皆さん、これが起きたことのすべて、偽りのない話です」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • uppermost(アッパモウスト)… 最も強く心に浮かぶ・いちばん上の難
  • slut(スラット)… 売春婦・女性を侮辱する語難
  • foul(ファウル)… 忌まわしい・汚らわしい・ぶつかって・衝突して・汚い・不正な難
  • sinned(スィンド)… 罪を犯した難
  • martyrdom(マータダム)… 苦難の生活・殉教難
  • atone(アトウン)… 罪を償う難
  • meshes(メッシズ)… 網の目・逃れにくいわな(複数)難
  • compunction(コンパンクション)… 良心の呵責・気のとがめ難
  • venomous(ヴェナマス)… 毒のある・悪意に満ちた難

次の場面:語り終えて When the Story Ends

来客の話がひとまず終わり、客間には静けさが戻る。ホームズは、これから何をするのかという問いに向き合う。事件にかかわった人々と、今この部屋で交わされた言葉。その間で何を選ぶのか、客間の会話は最後の確認へ進む。