Scene 03 · Notes

解説 場面 3「金の嗅ぎ煙草入れ」

この場面の解説

ホームズは新聞の事件を知っており、夫は禁酒家で、食事のたびに入れ歯を妻へ投げつけていたと説明する。ワトソンの挙げた例で反論したあと、金の嗅ぎ煙草入れがボヘミア国王からの礼だと話す。

表現・文法のポイント

as it happens
as it happens は「たまたま、折よく」という挿入表現。ここでは、ワトソンが偶然選んだ新聞記事が、ホームズ自身も関わった事件だったことを示す。単に事件が起きたという意味ではなく、自分が事情を知る理由を添えている。
I have scored over you in your example
ここでのscore overは、score offと同じく「相手をやり込める、一本取る」という意味で使われる。得点を直接数えているのではない。ホームズは、ワトソン自身の挙げた例でその主張に反論できたと、親しみを込めてからかう。

全文の対訳

"Indeed, your example is an unfortunate one for your argument," said Holmes, taking the paper and glancing his eye down it. "This is the Dundas separation case, and, as it happens, I was engaged in clearing up some small points in connection with it. The husband was a teetotaler, there was no other woman, and the conduct complained of was that he had drifted into the habit of winding up every meal by taking out his false teeth and hurling them at his wife, which, you will allow, is not an action likely to occur to the imagination of the average story-teller. Take a pinch of snuff, Doctor, and acknowledge that I have scored over you in your example."

「実のところ、その例はきみの主張には都合が悪いよ」とホームズは言い、新聞を取ってざっと目を通した。「これはダンダスの別居事件だ。たまたま私も関わって、これに関連するちょっとした点をいくつか明らかにした。夫は絶対禁酒主義者で、ほかの女もいなかった。訴えられていた行為というのは、彼がいつしか、毎回の食事の締めくくりに入れ歯を外して妻に投げつける癖をつけてしまったことだった。これは、きみも認めるだろうが、普通の物語作家の想像には、まず浮かびそうもない行為だ。先生、嗅ぎ煙草をひとつまみどうだ。そして、きみ自身の挙げた例で私に一本取られたと認めたまえ」

He held out his snuffbox of old gold, with a great amethyst in the centre of the lid. Its splendour was in such contrast to his homely ways and simple life that I could not help commenting upon it.

彼は金製の古い嗅ぎ煙草入れを差し出した。ふたの中央には大きな紫水晶が付いていた。その豪華さは、彼の飾り気のない振る舞いや質素な暮らしとあまりに対照的で、私は思わず感想を口にした。

"Ah," said he, "I forgot that I had not seen you for some weeks. It is a little souvenir from the King of Bohemia in return for my assistance in the case of the Irene Adler papers."

「ああ」と彼は言った。「何週間かきみに会っていなかったのを忘れていたよ。これはボヘミア国王からのちょっとした記念の品だ。アイリーン・アドラーの書類の件で力を貸したお礼にね」

難易度の高い単語 (☆ で覚えたい単語に入れる)

  • teetotaler(ティートウタラー)… 絶対禁酒主義者難
  • hurling(ハーリング)… 投げつけて・力いっぱい投げて難
  • snuff(スナフ)… 嗅ぎたばこ難
  • snuffbox(スナフボックス)… 嗅ぎ煙草入れ難
  • homely(ホウムリー)… 飾り気のない・家庭的な・(米では)器量のよくない難
  • story-teller(ストーリーテラー)… 物語の語り手・作家
  • unfortunate(アンフォーチュネット)… 残念な・不運な
  • acknowledge(アクノリッジ)… 認める

次の場面:指輪と相談事 The Ring and the Cases

ワトソンは、ホームズの指に光る見事な宝石の指輪にも目をとめ、その出どころを尋ねる。さらに、いま手がけている事件はあるのかと聞く。ホームズによれば、相談は十いくつもあるが、どれも重大なだけでおもしろみがない。小さな事件にこそ観察の楽しみがある、と彼は語る。