第 1 章(I)炉辺の相談A Case of Identity

ベイカー街の居間で、ホームズとワトソンは、現実と作り話のどちらが奇妙かを語り合う。新聞の事件、王家からの贈り物、手がけている相談の数々。やがてホームズは窓辺に立ち、通りの向こうでためらう一人の女性に目をとめる。訪ねてきた彼女は、まず自分の家族と暮らしのことを話しはじめる。

場面を選ぶ (0 / 10 読了)

  1. 01炉辺の議論 By the Fireベイカー街の下宿で、ホームズとワトソンが暖炉を挟んで座っている。この大都会の屋根をそっと外して中をのぞけたら、現実の出来事はどんな小説よりも奇妙だろう、とホームズは説く。新聞に載る事件は平凡で味気ないと考えるワトソンは、その意見にすぐにはうなずけない。
  2. 02朝刊を手に The Morning Paper三つの大陸から難事件の相談が集まるホームズだから、奇妙なものに出会うのだ、とワトソンは言う。それなら実地に確かめてみようと、床の朝刊を拾い上げる。最初に目に入った見出しは「夫の妻に対する残酷な仕打ち」。読まなくても筋書きはすっかり分かる、とワトソンは自信ありげだ。
  3. 03金の嗅ぎ煙草入れ A Golden Snuffboxワトソンが挙げた新聞の事件に、ホームズは目を走らせる。実はその件には、ホームズ自身が少し関わっていた。議論のあと、ホームズは古い金の嗅ぎ煙草入れを差し出す。ふたを飾る大きな紫水晶の輝きは、彼の質素な暮らしぶりにまるで似合わない。ワトソンはその由来を尋ねずにはいられない。
  4. 04指輪と相談事 The Ring and the Casesワトソンは、ホームズの指に光る見事な宝石の指輪にも目をとめ、その出どころを尋ねる。さらに、いま手がけている事件はあるのかと聞く。ホームズによれば、相談は十いくつもあるが、どれも重大なだけでおもしろみがない。小さな事件にこそ観察の楽しみがある、と彼は語る。
  5. 05通りの向こう Across the Streetホームズは椅子から立ち、ブラインドのすき間からロンドンの通りを見下ろす。向かいの歩道には、毛皮の襟巻きをして、赤い大きな羽根の帽子をかぶった女性が立っている。こちらの窓を不安そうに見上げては、体を前後に揺らし、手袋のボタンをいじっている。ホームズはその様子から何を読み取るのか。
  6. 06居間の訪問者 A Visitor in the Room給仕の少年に案内されて、メアリー・サザーランドという女性が居間に入ってくる。小さな少年の後ろに立つ彼女は、小舟に続く帆船のように大きく見える。ホームズは慣れた礼儀で彼女を肘掛け椅子に迎え、細かく観察する。最初に口にしたのは、彼女がまだ何も話していない事柄だった。
  7. 07相談に来た理由 Why She Cameメアリーは、知人のエサリッジ夫人からホームズのことを聞いて来たという。自分には年に百ポンドの収入があり、それをすべて差し出してもいいから、ホズマー・エンジェルという人がどうなったのかを知りたいと訴える。ホームズは指先を合わせたまま、なぜそれほど急いで家を飛び出してきたのかと尋ねる。
  8. 08家族の話 Her Familyメアリーはウィンディバンクという人を父と呼ぶが、その名は彼女の姓とは違う。ホームズは、その人が継父ではないかと確かめる。メアリーは、母が実父の死後まもなく、ずっと年下の男性と再婚したことを話す。トテナム・コート・ロードで配管工をしていた実父の商売のその後も、話の中に出てくる。
  9. 09収入の出所 A Question of Incomeとりとめもなく続くメアリーの話を、ホームズは意外にも、じっと集中して聞いている。そして、彼女自身の小さな収入について尋ねる。それは実父の商売から出ているものなのか。メアリーは、遠いニュージーランドのオークランドにいた叔父の名を挙げて、そのお金の出どころを説明する。
  10. 10本題の前に Before Her Story年に百ポンドに仕事の稼ぎまであれば、旅行もぜいたくも思いのままだろう、とホームズは水を向ける。メアリーは、家にいる間はそのお金を家族に使ってもらっていると話し、タイプの仕事の稼ぎについても語る。家の事情がひととおり分かったところで、ホームズはワトソンを紹介し、いよいよ本題を促す。